3.悪魔が来りて笛を吹く

ホーム>バックナンバー2020>令和二年10月号(通算228号)継承味 雄略天皇の王位継承3.悪魔が来りて笛を吹く

菅義偉内閣発足
1.ランボー
2.邪魔者は殺せ
3.悪魔が来りて笛を吹く

「市辺押磐皇子さまの行方がわからなくなりました」
 知らせを聞いて市辺押磐皇子の同母弟・御馬皇子は不思議がった。
「どこへ行ったのだ?」
「わかりません」
「兄上がどこへ出かけられたかは、同行した舎人たちに聞けばわかるだろう?」
「それが、同行した舎人たちも全員行方不明になっているのです」
「何だって!?」
 御馬皇子は嫌な予感がした。震える声で聞いてみた。
「兄は最後に誰と会っていたのだ?」
大泊瀬幼武皇子さまと一緒に狩りに行かれたそうです」
大泊瀬幼武皇子!」
 その名を聞いて疑惑は確信に変わった。
「――なるほど、どうやら兄は大泊瀬に狩られたようだ」
「え!」
「このままでは私の命も危ない」
「!!」
「逃げるぞ!」
「どこに?」
 御馬皇子は親しくしていた豪族・三輪身狭
(みわのむさ)を頼ることにした。
 が、三輪の磐井
(いわい。奈良県桜井市)まで来た時、どこからともなく口笛が聞こえてきた。
 ぴーひゃらら〜♪
「誰だ?」
 立ち止まった御馬皇子に、草むらから伏兵が飛び出してきて襲いかかった。
「あんたを逮捕しに来ました!」
「何ゆえだー!?」
 抱きつき!
 バタバタ!
 ボコボコ!
 しゅ〜ん。
 御馬皇子は抵抗したものの、あえなく生け捕られてしまった。

 御馬皇子は大泊瀬幼武皇子の前にしょっぴかれた。
 御馬皇子は暴れた。
「なぜ私がこんな目にあうのだ!?」
 大泊瀬幼武皇子が教えてあげた。
「三輪を頼って謀反を起こそうとしたからではないか。 謀反未遂犯は死刑だ」
「私はただ、身の危険を感じて逃げただけだ!謀反など企んでいない! 私の兄もそうだ! お前は王位が欲しいがために、無実の私の兄を殺し、私も殺そうとしているのであろう!」
 御馬皇子は反論すると、公開処刑を見に来ていた野次馬たちに呼びかけた。
「みんな聞け! こんなヤツでいいのか? コンナノを大王にしたら、とんでもない暴君になるぞっ!」
 野次馬たちがザワザワしてきたが、大泊瀬幼武皇子がそれ以上は騒がせなかった。
「はいはいはい、言い訳の続きはあの世でわめくがいい。あー、うるさい! とっとと処刑してしまえ!」
 御馬皇子は首をくくられた。
 彼は最期に井戸を指差して、こう呪いをかけたという。
「この水は民は飲むことができるが、大王は絶対に飲むことはできない!」

*             *             *

 安康天皇三年(456?)十一月、大泊瀬幼武皇子は泊瀬朝倉宮(はつせのあさくらのみや。奈良県桜井市)で即位した。
 伝二十一代大王雄略天皇である。

[2020年9月末日執筆]
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※ 弊作品の根幹史料は『日本書紀』と『古事記』です。
※ 市辺押磐皇子の墓は市辺
(いちべ。滋賀県東近江市)にあります。その隣に佐伯部売輪の墓もあるといいます。
※ 御馬皇子が呪ったとされる井戸は三輪山
(みわやま。桜井市)にあるといいます。

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