1.見てるだけ〜

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舛添都知事公私混同問題
1.見てるだけ〜
2.ごはんタダ
3.おかずタダ
4.自分は働かない
5.他人に働かせる
6.募金詐欺?
7.豪快に寄付
8.ケチvsケチ
9.売れない物を売る
10.売れない物を高く売る

 まだ吉四六(きっちょむ)が少年の頃の話であった。
 家の庭に大きなカキの木があった。
 秋になると、たくさんの実がなった。
 ある朝、吉四六は父親に知らせた。
「カキ、もう食べ頃だよ」
 父親がカキの木を見上げた。
「そうだな。食べ頃だな」
 でも、食べていいとは言わなかった。
 何しろケチな吉四六の父親である。
 父親もまた、ケチであった。
「お使い物にでもするか」
 父親は考えていた。
(お使い物にすれば、何かしら返礼品がもらえる)
 父親はどこに贈ればハイリターンになるか考えた。
 そして、思いついた。
(そうだ! 菓子屋だ! 菓子屋ならタダの果物が高級菓子に変わって返ってくるだろう! お得だぜー!)
 父親は町の菓子屋に出かけることにした。
「ちょっと町まで出かけてくる」
 どこに行くかは言わなかった。
 それがケチというものであった。
 吉四六はおもしろくなかった。
(お使い物にするってことは、おらの口には入らないってことだ)
「吉四六。帰ってくるまでカキの木を見ててくれ。いいな、見てるだけだぞ」
「わかったよ。見てるよ。見てるだけにするよ」
 吉四六はカキの木のそばに座ってそれを見上げた。
 父親は安心して出かけていった。

「行ったか」
 父親の姿が見えなくなると、吉四六はカキの木に登ってカキを食べた。
 ガリガリ! ムシャムシャ! ペッペッ! ゴックン!
「うめえ! 初ガキはうまいぜ! そういうおらは悪ガキだぜ! アハー!」
 カキなんてそんなにたくさん食べられるものではない。
 二、三個食べると飽きてきた。
 吉四六は父親と同じことを思いついた。
「そうだ! 友達を呼んでやろう。カキをガキにおごってやれば、後で何かしらおごり返してもらえる」
 吉四六は近所の友達を呼んでカキをごちそうしてあげた。
「おいしーねー、おいしーねー」
 友達もみな二、三個ずつ食べると飽きてしまって、
「ありがとー。今度何かおごってあげるねー」
 と、お礼を言って帰っていった。

 夕方、父親がニコニコして帰ってきた。
 が、カキの木を見上げて実が減っているのを見て、ニコニコは止まってしまった。
「ありゃ、カキはどうした?」
 吉四六は朝と変わらない場所でカキの木を見上げていた。
「おまえ、ずっとそこにいたのか?」
「はい」
「でも、カキの実が減っているぞ。どういうことだ?」
「そりゃそうでしょう。近所の子供達がやって来て、木に登って食べて行きましたから」
「その時おまえは何をしていた?」
「子供たちがカキを食べるのをじっと見ていました」
「注意しなかったのか? 追い払わなかったのか?」
「はい。だって父さんに、『見てるだけだぞ』って念を押されましたので、見てるだけにしました」
 父親は舌打ちした。歯ぎしりした。地団駄踏んで悔しがった。
「こいつは一杯食わされたぜ!」

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