2.ごはんタダ | ||||||||||||||
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吉四六のケチは成長しても治らなかった。
そもそも治すつもりはなかった。
大人になると、ケチだけではなく、悪知恵も働くようになった。
吉四六の村におもしろい話を聞くのが大好きな金持ちがいた。
でも、この金持ち、どんな話をしても、決まって、
「そんなことはありますま〜い」
と、話の腰を折ってしまうので、話している人は続きを話せなくなってしまうのであった。
そのため最近では、この老人におもしろい話をする者はいなくなってしまっていた。
「つまんねえな」
そんな折、吉四六がこの邸宅の前を通りかかった。
話好きの金持ちは喜んだ。
「吉四六さん、吉四六さん。いいところに来た。なにかわしにおもしろい話を聞かせておくれ」
さすがの吉四六も、この金持ちにはうんざりしていた。
「嫌だね。あんたの『そんなことはありますま〜い』は、話をする気を無くしちゃうからね」
「今日はソレ、言わないから」
「信じられないな。これはもう無意識のうちに出ちゃっているんだよ。口癖になっちゃってるんだよ」
「絶対言わないから、何か話をしておくれよ〜」
そこで吉四六は条件を出した。
「じゃあ、もし、『そんなことはありますま〜い』って言っちゃったら、おらに米一俵くれるかい?
それなら話をしてあげてもいいぜ」
「わかった。言ってしまったら米一俵出すよ。言わないから大丈夫だ」
吉四六は話し始めた。
「昔、あるところに殿様がいた」
「うんうん」
「参勤交代で江戸へ向かうことになった」
「うん」
「途中の山道で何かが鳴いていた」
「何かな?」
「ピーヒョロロー、ピーヒョロロー」
「あ! トンビだ」
「殿様がかごから顔を出した」
「うん、様子を見るだろうな」
「ブリブリッ! ヒューン! べちゃっ!」
「?」
「トンビのフンが殿様の羽織に落ちた」
「まさか、そん――」
「え? なに?」
「いや、なんでもない。あぶねえ、引っかかるところだった。――で、続きは?」
「殿様は家来に命じた。『羽織の代わりを持ってまいれ』と」
「そうだろうな。汚いもんな」
「しばらくして、またトンビから何かが落ちてきた」
「え?」
「ブリブリッ! ヒューン! べちゃっ!」
「まさか」
「今度は殿様の刀にトンビのフンが落ちた」
「そんなことは――、いーやその、なんでもない」
「殿様は家来に命じた。『刀の代わりを持ってまいれ』と」
「だろうね」
「しばらくして、ブリブリッ! ヒューン! べちゃっ!」
「またかい」
「三発目のフンが殿様の顔面に命中!」
「ププッ、悲惨〜」
「殿様は自分の首を斬ると、家来に命じた。『首の代わりを持ってまいれ』と」
「ウハハ! まさかそんなことはありますま〜い!」
金持ちは大笑いした。
が、吉四六の満面笑顔に気づいて笑いが止まってしまった。
「言いましたね? 『まさかそんなことはありますま〜い!』って、確かに言いましたよ!
はいっ、米一俵いただきっ!」
金持ちは舌打ちした。歯ぎしりした。地団駄踏んで悔しがった。
「こいつは一杯食わされたぜ!」