4.自分は働かない | ||||||||||||||
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ある正月、吉四六は村人たちと山へ薪(たきぎ)を取りに行った。
その山には薪にするシイの木がたくさん生えていたのである。
村人たちはせっせとシイの枝を切ると、縛って薪の束にした。
しかし吉四六はタバコを吸って座っているだけで、働こうとはしなかった。
村人たちが不思議がった。
「吉四六さんは薪はいらないのかい?」
「ああ、いるよ。いるけど今はまだいい。もう少したったら本気出す」
「そんなこと言ってると日が暮れちゃうよ。私たちはもう十分だから、先に帰るわ」
村人たちはそれぞれ薪の束を背負うと、里へ帰ろうとした。
「ちょっと待って」
吉四六が村人たちが背負っていた薪を指して聞いた。
「それってシイの木の枝だよね?」
「ああそうだよ」
「君たち、知らないのかい? シイの木はね、『悲シイ』に通じる縁起の悪い木なんだよ」
「え! そうなの!?」
「そうだよ〜。今は正月なんだよ〜。正月から『悲シイ』を使っちゃったら、一年ずっと悲しい毎日を送らなきゃならなくなっちゃうんじゃないの〜?
ダメだよそりゃ〜」
「それは困るな」
村人たちはシイの薪を放り出すと、別の木を切り始めた。
すると吉四六は、村人たちが捨てたシイの薪の束をまとめて背負った。
で、村人にこう告げたのである。
「おら、こんなに薪を拾いましたので、先に帰らせてもらいます」
村人たちは驚いた。
「おいおい、それって私たちが捨てたシイじゃないか! それは『悲シイ』に通じる縁起の悪い木じゃなかったのかい?」
「違うよ」
「違う?」
「これはね、『嬉シイ』に通じる縁起の良い木なんだよ」
「!」
「今は正月なんだよ〜。『嬉シイ』なんて正月にピッタリじゃないか。『嬉シイ』を使ったら、一年ずっと楽しい生活を送ることができるんだよ〜。嬉シイなー」
そう言うと吉四六は、薪を背負ってとっとと帰っていった。
村人たちは舌打ちした。歯ぎしりした。地団駄踏んで悔しがった。
「こいつは一杯食わされたぜ!」