ホーム>バックナンバー2016>7.豪快に寄付
吉四六の村に寺があった。
老朽化のため本堂を建て直すことになった。
村人たちから寄付金を集めることにしたが、今回の集金係は吉四六ではなかった。
そのため、集金係は吉四六の家にも寄付金を集めにきた。
「頼むよ吉四六さん。ケチな吉四六さんがたくさんの金品を寄付してくれれば、他の村人たちは吉四六さんには負けまいと、それ以上の金品を寄付してくれるようになるんだよ。お願いだ。なるべくたくさんの金品を寄付してくださいよ〜」
吉四六はニヤッとした。
「それもそうだな。それならおらはこれを寄付しよう」
吉四六は集金係が差し出した帳面に、
「スギの木百本」
と、記入した。
集金係は喜んだ。
「これはいい! ケチで有名な吉四六さんがこれだけ出してくれたら、他の村人たちももう出すしかありませんな」
集金係はまずは庄屋の邸宅を訪れた。
「庄屋さん。本堂再建のための寄付を集めに来ました。後で取りに来ますので、まずはこの帳面に寄付する金品の名前を書いてください」
「ああ、それなりに寄付してやるぞ」
「では、ここに御記入ください」
集金係が指差したのは、吉四六が書いた隣の欄であった。
「なるほど、吉四六さんは何を寄付したって? はえ? 百本? 何を? スッ、ススッ、スギの木百本だって!!
あ、あのあの、ケチで有名な、きっききっちょめぅさんが、すすすしゅしゅしゅゅ、しゅぎ百本だってぇー!!!」
庄屋の手が震えた。
思わず「米一俵」と書こうとしたところを、「米百俵」に書き換えざるをえなくなった。
他の村人も、吉四六の寄付品を見てぶったまげ、無理して何かとたくさん寄付してくれることになった。
そのため、本堂再建に見合う金品がすぐに集まってしまった。
集金係はホクホクして、再び吉四六の家にやって来て聞いた。
「あのー、寄付品のスギ百本ですが、どこに取りに行けばいいでしょうか?」
「ああ、ここでいいよ。今手渡すから待ってて」
そう言うと吉四六は奥の間に入っていった。
集金係は首を傾げた。
「え? スギ百本を手渡しで? どういうこと!?」
吉四六が奥の間から戻ってきた。
何かこぢんまりとしたものを抱えてきた。
「はい、これ。スギ百本」
吉四六が渡したのは、スギの木製の箸(はし)百本、つまり五十膳であった。
受け取った集金係は、苦笑いするしかなかった。
「こいつは一杯食わされたぜ!」