8.ケチvsケチ | ||||||||||||||
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吉四六でも、まともに働くこともあった。
ある時、吉四六は庄屋に仕事を頼まれた。
「川の渡し舟の船頭が風邪を引いた。吉四六さん、今日だけ代わりに船頭をやってくれないか?」
「いいよ」
お昼頃、吉四六の舟に、客の侍がやって来て聞いた。
「おい、船頭」
「何ですか?」
「渡し賃はいくらだ?」
「八文です」
「八文は高いな。六文にしてくれ」
「いえ、八文です。決まりなんで」
「ダメだ六文で乗せてくれ」
(ケチな侍だな)
そう思ったとたん、吉四六に対抗心が芽生えた。
(そう言うおらもケチだった……)
バチバチと火花が飛び交う、絶対に負けられない戦いが始まろうとしていた。
「分かりました」
なのに吉四六は折れた。
「六文で乗せましょう」
侍は勝ち誇った。
「初めからそうすりゃいいんだよ」
しかし、吉四六は負けたわけではなかった。
川の途中で舟を止めたのである。
侍は訳が分からなかった。
「どうした? まだ途中じゃないか。なぜ止まるんだ?」
「ここまでが六文分になります。あと二文追加しないと向こう岸にはたどり着きません」
侍は怒った。
「水の上に降りろというのか!」
「泳ぐという手立てもございます」
「話にならぬ! 泳がないために渡し舟に乗ったんだろうがー!」
「だから、舟を進めるにはあと二文必要なんです」
「うぬぬ……」
侍は作戦を変更した。
「もういい! こんな不愉快なヤツにはビタ一文も払いたくなくなった! 初めから舟に乗らなかったことにするから、元の岸まで引き返せ!」
「かしこまりました」
吉四六は元の岸に舟を戻した。
「ああっ、二度手間だぜ!」
侍はブリブリ怒って舟を降りようとしたが、その腕を吉四六がつかんで請求した。
「お客さん、タダ乗りはいけませんぜ。行きの六文分と帰りの六文分、合わせて十二文いただきます」
侍は舌打ちした。歯ぎしりした。地団駄踏んで悔しがった。
「こいつは一杯食わされたぜー!」