9.売れない物を売る | ||||||||||||||
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吉四六の村にはカラスがたくさんいた。
農作物を荒らすので、ワナを作って捕まえることにした。
「カー、カー!」
「アホー、アホー!」
「モー、ダメカー!」
二十羽ほど捕まえたが、処分に困った。
カラスはうまくないし、普通に売っても売れないのである。
でも、吉四六はいいことを思いついた。
「そんなら普通じゃないやり方で売ろう」
吉四六はカラス二十羽をかごに詰めると、かごの上にキジをくくりつけて町に売りに行った。
「カラス〜。カラスはいらんかね〜。安いよっ。一羽十文だよっ」
町人たちは笑い合った。
「カラス? カラスなんていらねーよ」
「いらないものを十文なんて高すぎっ」
「いったい誰が買うんだ?」
しかし、かごの上にくくりつけてあるものに気づいた町人がいた。
「おい、あれはカラスじゃないぞ。かごの上にくくりつけてあるものを見てみろよ」
他の町人たちにも分かった。
「ホントだ。キジだ」
「どういうこと? カラスって売り歩いているのに」
「ははあ。さては勘違いしているな。キジのことをカラスと思っているんだよ」
「バカじゃねえか!」
「こいつはいい! バカが気づく前に買っちまおうぜ!」
「そうだよ、カモがネギ――、いや、バカがキジを背負ってやって来たんだ!
こんなおいしい話はねえ!」
「キジが十文なら安すぎだ。みんなで銭を出しあってかごごと全部買っちまおう!」
「賛成!」
みんなから銭を集めた町人の一人が、吉四六に近づいて聞いた。
「おい、カラス売り」
「はい」
「カラスをくれ」
「ありがとうございます。一羽十文でございます」
「そうか。かごの中には何羽いるんだ?」
「二十羽でこざいます」
「ということは全部で二百文だな。よし、かごごと全部買おう」
「ありがとうございます〜」
吉四六は銭を受け取ると、かごを下ろし、くくりつけていたキジを外してからかごを渡した。
「では、おらは売り物がなくなったので、村に帰りますので」
「御苦労。へっへへ」
町人はルンルンしながらかごのフタを開けた。
で、中身を見て驚いた。
「ありゃりゃ! カラスじゃないか!」
他の町人たちも集まってきて騒いだ。
「ホントだ! マジでカラスだ!」
「鮮やかなキジじゃなくて、全部真っ黒なカラスじゃねーか!」
「ひでえ! こんなのボッタクリだ!」
「サギだ! 偽装だ! 悪徳商法だ!」
騒ぐ町人に、吉四六が冷静に言い返した。
「あれ? おらはちゃんと『カラス〜。カラスはいらんかね〜』って、言ってましたよ。大きな声で言って売ってましたよ。キジを売ってるなんて、ただの一言も言ってませんよ。みなさんには、カラスって聞こえませんでしたか?」
たしかにその通りであった。
吉四六は二百文を片付けると、悠然と帰っていった。
町人たちは舌打ちした。歯ぎしりした。地団駄踏んで悔しがった。
「こいつは一杯食わされたぜー!」