9.売れない物を売る

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舛添都知事公私混同問題
1.見てるだけ〜
2.ごはんタダ
3.おかずタダ
4.自分は働かない
5.他人に働かせる
6.募金詐欺?
7.豪快に寄付
8.ケチvsケチ
9.売れない物を売る
10.売れない物を高く売る

 吉四六の村にはカラスがたくさんいた。
 農作物を荒らすので、ワナを作って捕まえることにした。
「カー、カー!」
「アホー、アホー!」
「モー、ダメカー!」
 二十羽ほど捕まえたが、処分に困った。
 カラスはうまくないし、普通に売っても売れないのである。
 でも、吉四六はいいことを思いついた。
「そんなら普通じゃないやり方で売ろう」

 吉四六はカラス二十羽をかごに詰めると、かごの上にキジをくくりつけて町に売りに行った。
「カラス〜。カラスはいらんかね〜。安いよっ。一羽十文だよっ」
 町人たちは笑い合った。
「カラス? カラスなんていらねーよ」
「いらないものを十文なんて高すぎっ」
「いったい誰が買うんだ?」
 しかし、かごの上にくくりつけてあるものに気づいた町人がいた。
「おい、あれはカラスじゃないぞ。かごの上にくくりつけてあるものを見てみろよ」
 他の町人たちにも分かった。
「ホントだ。キジだ」
「どういうこと? カラスって売り歩いているのに」
「ははあ。さては勘違いしているな。キジのことをカラスと思っているんだよ」
「バカじゃねえか!」
「こいつはいい! バカが気づく前に買っちまおうぜ!」
「そうだよ、カモがネギ――、いや、バカがキジを背負ってやって来たんだ! こんなおいしい話はねえ!」
「キジが十文なら安すぎだ。みんなで銭を出しあってかごごと全部買っちまおう!」
「賛成!」

 みんなから銭を集めた町人の一人が、吉四六に近づいて聞いた。
「おい、カラス売り」
「はい」
「カラスをくれ」
「ありがとうございます。一羽十文でございます」
「そうか。かごの中には何羽いるんだ?」
「二十羽でこざいます」
「ということは全部で二百文だな。よし、かごごと全部買おう」
「ありがとうございます〜」
 吉四六は銭を受け取ると、かごを下ろし、くくりつけていたキジを外してからかごを渡した。
「では、おらは売り物がなくなったので、村に帰りますので」
「御苦労。へっへへ」
 町人はルンルンしながらかごのフタを開けた。
 で、中身を見て驚いた。
「ありゃりゃ! カラスじゃないか!」
 他の町人たちも集まってきて騒いだ。
「ホントだ! マジでカラスだ!」
「鮮やかなキジじゃなくて、全部真っ黒なカラスじゃねーか!」
「ひでえ! こんなのボッタクリだ!」
「サギだ! 偽装だ! 悪徳商法だ!」
 騒ぐ町人に、吉四六が冷静に言い返した。
「あれ? おらはちゃんと『カラス〜。カラスはいらんかね〜』って、言ってましたよ。大きな声で言って売ってましたよ。キジを売ってるなんて、ただの一言も言ってませんよ。みなさんには、カラスって聞こえませんでしたか?」
 たしかにその通りであった。
 吉四六は二百文を片付けると、悠然と帰っていった。
 町人たちは舌打ちした。歯ぎしりした。地団駄踏んで悔しがった。
「こいつは一杯食わされたぜー!」

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