10.売れない物を高く売る | ||||||||||||||
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吉四六の馬が年老いた。
物を運ぶ量は少なく、時間は長くなってきた。
耳は遠く、目もうとくなってきたようであった。
「そろそろ買い替えないといけないな」
吉四六はいいことを思いついた。
「よし! こいつを高値で売って、いい馬を買うことにしよう」
それからの吉四六は変なことを始めた。
ザルに馬のフンを入れて、川で洗ってニンマリするのである。
「わーい! 今日ももうかったぜ」
村人の一人が不思議がった。
「吉四六さん、何してるの?」
「馬のフンを洗っているんだよ」
「汚いな。そんなことをして何になるの?」
「この馬のフンには砂金が混じっているんだよ。だから洗って砂金を取り出しているんだよ」
「へー。馬のフンから砂金が採れるなんて初耳だな。そんなら俺も馬のフンも洗ってみるか」
「ダメだよ。他の馬でやってもダメなんだ。この馬のフンにしか砂金は混じってないんだよ」
「どうして?」
「どうしてって、『いいエサ』を与えているからに決まっているじゃないか」
吉四六は「変なこと」を毎日続けた。
知らない村人は不思議がった。
「毎日毎日、吉四六は何を洗っているんだろう?」
知っている村人が教えてくれた。
「馬のフンだよ。吉四六さんの馬は、毎日おしりから砂金を出すらしいよ」
「ププッ! 信じられない話だ」
「吉四六さんはケチだけど、ウソはつかないよ」
「確かに。吉四六がウソをついた話は聞いたことないな。――いや、待てよ。天に昇るってのはウソだったじゃないか」
「あれはウソじゃなくてホラでしょ? 他人を傷つけるようなウソはつかないよ」
「馬のケツから砂金が出なかったって、誰も傷つかないじゃないか」
「そうだけど、あのケチな吉四六さんが毎日やっているんだよ。吉四六さんは無駄なことはしない人だ。本当に出るから毎日やっているんじゃないの?」
「言われてみればそうだ。本当に金プンを出す馬がいるとすれば、俺も欲しいものだ」
砂金を出す馬のうわさは村中に広まった。
「吉四六さん、その馬を売ってくれないか? 大金を出すから」
そう頼む村人もいたが、
「大金? そんなもん、毎日馬から出てくるからいらないな」
吉四六は頑として売らなかった。
やがてうわさは町にも広まった。
うわさを聞きつけた町一番の馬買いが吉四六の家にやって来て頼んだ。
「話は聞いた。吉四六さんとやら、どうかその馬を売ってくれないか?」
「ダメだね。百両積まれてもお断りだ」
「それなら二百両出そう!」
吉四六は折れた。
「わかったよ。どうしても買う気で来た人にはかなわないよ。惜しいけど、売ってあげるよ」
「ありがとう!」
馬買いは喜んだ。
早速、砂金を出す馬を連れて帰ろうとした。
吉四六は忠告した。
「ただし、毎日『いいエサ』をあげるんだよ。そうしないと砂金は出ないからね」
「わかったよ。高級なエサを毎日あげることにするよ」
馬買いは喜び勇んで町へ帰っていった。
しかし数日後、馬買いは怒って吉四六の家に押しかけてきた。
「おい! あの馬、砂金を出さないぞ! どういうことだ?」
「おかしいですね。出すはずなんですけどねー」
「出たのは最初の日だけだ。あとはさっぱり出なくなった。だましたのか?」
「だましてませんて〜。――あ、ひょっとして、毎日『いいエサ』をあげていなかったのでは?」
「そんなことないぞ! ニンジンや穀物や高級なエサばかりあげていたぞ!」
「あ、それでは出ませんて。『いいエサ』をあげないと」
「『いいエサ』って何だ? いったい何を食わせれば砂金が出てくるんだ!?」
「砂金に決まっているじゃないですか」
「なに?」
「『いいエサ』っていうのは、馬のエサに砂金を混ぜたものですよ。考えてみてください。砂金を食べさせない馬が、砂金の混じったフンを出すわけないじゃないですか」
確かにその通りであった。
「むむむ……」
馬買いは舌打ちした。歯ぎしりした。地団駄踏んで悔しがった。
「こいつは一杯食わされたぜーっ!」
[2016年5月末日執筆]
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