2.しばし斯波氏 | ||||||||||||||
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斯波高経 PROFILE | |
【生没年】 | 1305-1367 |
【別 名】 | 孫三郎・足利高経・尾張高経 修理大夫・玉堂・道朝 |
【本 拠】 | 京都三条高倉・越前国(福井県) |
【職 業】 | 武将 |
【役 職】 | 管領後見・越前・若狭守護 |
【位 階】 | 従四位下or正四位下 |
【 父 】 | 斯波(足利)宗氏or家貞 |
【 母 】 | 長井(大江)時秀女 |
【 妻 】 | 二階堂時綱女 |
【 子 】 | 斯波家長・氏経・氏頼・義将・義種 |
【兄 弟】 | 斯波家兼 |
【主 君】 | 足利尊氏→足利義詮→足利義満ら |
【仇 敵】 | 細川清氏・斯波高経ら |
【作 品】 | 立花口伝大事 |
【没 地】 | 杣山城(福井県南越前町) |
足利義詮は近江守護・六角氏頼に密命を下した。
「斯波高経の悪政に守護や大寺社などの怒りが頂点に達しようとしている。彼らの怒りを静めるために高経を討て!」
「ははぁー」
氏頼は手勢を率いて上洛した。
氏頼は佐々木高氏の娘婿である。
義詮の命令というより、高氏の差し金であろう。
「近々、六角が斯波を討つそうな」
「そう将軍さまが命じなさったそうな」
「将軍さまは京極導誉(佐々木高氏)殿の讒言を真に受けておられるそうな」
うわさを聞いた高経は、貞治五年(1366)八月四日の晩に将軍御所・三条坊門殿(さんじょうぼうもんどの)に参上した。
「将軍」
義詮は作り笑顔で迎えた。
「おお、高経」
「よからぬうわさを耳に入れました」
「よからぬ、うわさ?」
「はい。近々、六角の手の者が拙者を討ち取りに参ると」
「……」
「六角に拙者を討てと命じたのは将軍だと」
義詮は追い詰められた。言い訳した。
「仕方なかったのだ。守護大名や大寺社などは、そちの増税路線政策に反発している。余はそちの悪政を支持することはできぬ」
「守護や寺社が増税に反対するのはうなずけます。しかし、将軍が怒るのは納得できません。増税は幕府の財政を立て直すために行うのです。将軍のために行うのです。拙者は私欲のために増税するのではありません。すべては幕府を率いる将軍の権威を高めるためではありませんか!その拙者を将軍は討とうとなされる!奸臣(かんしん)高氏の讒言を信じ、忠臣の拙者に兵を差し向けようとしている!このような理不尽なことがありましょうや!情けない!拙者は今まで、いったい何を守るために幕政を担ってきたのか!」
高経は号泣した。
義詮も涙した。
高経は立ち上がった。
「領国へ帰らせていただきます。戦の準備がありますゆえ。次は戦場で会いましょう」
高経は去っていった。
義詮は止めなかったが、声はかけた。
「許してくれ。余は将軍でありながら、思うように執政することはできぬ。そちが幕府のための政治を行っていることは佐々木らも分かっているはずだ。他の守護たちもみなみな後ろめたいものを感じているはずだ。しばし領国へ帰り、みなの憤りが静まるのを待ってほしい。追手が向かったとしても、誰もそちの城を本気で攻める者はあるまい」
高経は立ち止まった。
振り向いて身を震わせて怒りをぶちまけた。
「何ということだ!将軍のくせに家来筋に頭が上がらずに悔しいと思わないのか!貴様はそれでも清和源氏の直系、武家の棟梁、足利将軍家の当主か!同じ足利の血を引く者として拙者は恥ずかしいっ!こんなことなら足利一門の正嫡、尾張足利家の当主である拙者が将軍になっておくべきであった!拙者は佐々木六角のザコごときに負けぬ!不条理にも負けはせぬ!拙者は再び帰ってくる!反逆の臣下どもを打ち負かし、この将軍御所の新しい主として、必ずや凱旋(がいせん)してくれるであろう!」