1.虐待オヤジ | ||||||||||||||
ホーム>バックナンバー2014>1.虐待オヤジ
|
夫と妻と子供二人、絵に描いたような幸せな四人家族があった。
「あははは!」
「おほほほ!」
「キャーキャー!」
「ヒャーヒャー!」
その日、夫がお城から帰ってくるまでは、笑いの絶えない円満家族であった。
「あ、父上だ!父上が帰ってきた!」
「おかえり〜」
か、いつもは、「ただいま」という夫はムッとしていた。
それどころが、
ドカッ!
バキッ!
上の子を突き飛ばし、下の子に飛び蹴りを食らわせた。
「えーん!」
「ひーん!」
二人は火がついたように泣いた。
びっくりして妻が出てきた。
「清十郎、助十郎、大丈夫?」
妻は二人をなでると、夫をにらんだ。
「何てことするのっ?」
夫に反省の色はなかった。
それどころか妻にも口撃してきた。
「なんだと?ブス!」
「え?」
妻は耳を疑った。
結婚以来、夫からそんな汚い言葉を聞いたことはなかった。
「聞こえねえのか?おかちめんこ!」
「!」
「目も当てられぬクソババア〜」
「!!」
「はーい、決めたんでーす。今日から俺は、お前たち三人を朝昼晩四六時中たたきまくることにしましたー!」
夫はそう言うと、ボカボカ子供をたたいた。
「えーんえーん!」
「ひーんひーん!」
「もうやめて!」
妻は夫に抱きついて止めた。
「いったいどうしちゃったの?目を覚ましてー!」
妻は夫の背中をポカポカ非力にたたいた。
「うるせー!」
夫は妻を壁に突き飛ばすと、ドカドカ連続壁ドンで対抗した。
「お前ら醜い母子を見ていると、たたかずにはいられないんだよー!」
「う、うっ、そ、そんな……、そんなこと、今まで一度だって言ったことなかったのに……」
「今までは我慢していただけだ!それももう限界だ!俺のこぶしが暴力を欲しているんだ!醜い連中をたたきのめせって脳ミソが叫んでいるんだよー!」
「く、狂ってるわ……」
「そうよ、俺は狂ったのだ!俺はたたく!お前たちをなぐる蹴る!ワハハハハ!たんこぶ生傷みみずばれ生活が嫌だったら、今すぐ子供を連れて実家に出戻るんだなっ!」
「出戻りなんて、嫌ですっ」
「じゃあたたく!すごいたたく!毎日が半殺しだ!地獄絵図だ!」
「それも嫌ですっ!」
「どっちも嫌でもどっちかを選べ!」
「……」
「さあ!さあ!さあ!選べねえならたたき斬るぞっ!」
夫は刀を抜いた。
妻は観念した。
「わわわわかったわよっ!出戻りゃいいんでしょうが!ひーん!」
妻は子供二人を連れて尾張守山(もりやま。名古屋市守山区)の実家に出戻っていった。
「行ったか」
三人の姿が見えなくなったのを確認すると、夫は刀を収めた。
夫の名は道化六郎左衛門(どうけろくろうざえもん。道家定重?)。
美濃国主・斎藤道三(さいとうどうさん。斎藤利政・長井規秀ほか)の家臣である。
「邪魔者は去った。これでたとえ俺が死んでも、悲しむ者はいない……」