3.ハーフハーフ

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衆院選2014
1.虐待オヤジ
2.忠義か?出世か?
3.ハーフハーフ
稲葉山城=岐阜城周辺(岐阜県岐阜市)

 弘治二年(1556)元旦の初日の出は一つだけではなかった。
 頭を剃った侍どもが続々と稲葉山城の広間に集結したからである。
「みなさん、まぶしすぎです〜」
 斎藤高政の右筆・武井夕庵
(たけいせきあん・ゆうあん)が稲葉・安藤・氏家ら西美濃三人衆に笑いかけると、
「お前もだ!」
「お互い様だ!」
「こうしてやる!」
 頭をぐりぐりなでまわされた。
「ひゃー!やめてくださいよ〜」

 大垣(おおがき。岐阜県大垣市)城主・竹腰道鎮(たけごしどうちん。道塵)が、ない髪をかき上げて言った。
「主だった武将はみな来ておるな」
 その子で柳沢城主の竹腰尚光
(ひさみつ。成吉尚光)も、剃りたての頭が寒そうであった。
「ええ、みんなツルツルにしてきてます。しかし、こういった趣向は冬にはやめていただきたいですね。ヘーックション!」

 上座に斎藤高政が登場した。
「あけましておめでとうございます!」
 一同平伏すると、広間は光で満ちあふれ、七色の虹
(にじ)が舞い降りた。
「大義である」
 高政はホクホクした。
「壮観だ。これほどたくさんのハゲ――、いや、剃髪頭を見たのは初めてだ。みなで読経でもするか?」
 一同どっと笑った。
 夕庵が本日の出席者名簿を高政に渡した。
 高政が目を通した。
「明智や竹中らが来ぬことは初めから分かっていた。だが、道化は迷っていたというではないか」
 高政が見やった先の日根野弘就が答えた。
「申し訳ございません。説得しきれませんでした。道化は、来るか来ないかは五分五分と申していたのですが……」
「残念だ。敵に回したくない豪傑だったが、来なければ仕方あるまい」

 その時、光の広間に影が差した。
 戸口に新たな人影が立っていた。
「道化六郎左衛門、ただ今参上!」
「おお!」
 一同どよめいた。
 みなみな道化の頭を見たが、その頭は頭巾
(ずきん)で覆われていた。
 高政は喜んだ。
「待っておったぞ」
「ははあーっ」
 六郎左衛門は広間に入ると、末席の端っこに座ってかしこまった。
 一同はヒソヒソうわさした。
「道三お気に入りの道化まで来るとは」
「これでマムシも終わりよの」
「しかしあの頭巾は何だ?」
「ツルツルが恥ずかしいのだろう」
「豪傑なのにか?」
「まさか、剃っていないってことは……」
「バカめ!剃っていないってことは道三につくということだ。そんなヤツはわざわざ敵だらけのところにはやって来ないであろう」
「そりゃそうだな」

 高政が促した。
「道化。もったいぶらずに早く頭巾を取って誓いのあかしを披露してみよ」
「ははあーっ」
 六郎左衛門は頭巾を取った。
 ピッカリーン!
 新たな光が広間に加わった。
「おおっ!」
「やっぱり剃ってる!」
 一同は安堵した。
「頼もしい限りだ」
 高政も安心した。

 が、違和感を覚えた弘就はだまされなかった。
 彼は六郎左衛門に近づくと、その顔を真正面から見てみた。
 他の人々は、末席の端っこに座っていた六郎左衛門の左側の顔しか見ていなかったのである。
 弘就の予感は当たった。
「うぷ!」
 弘就は吹き出した。
 近くにいた夕庵を手招きした。
「なんだこれ!」
 夕庵も六郎左衛門の真正面顔を見て笑った。
 頭の右側と左側を交互に見て、ゲラゲラ笑った。
 一同も取り巻いて笑い出した。
「どうした?どうした?」
 たまらず高政も近寄ってきた。
 そして、同じように大笑いした。
「ぶはははは!六郎左衛門、そのおもしろい頭は、どうしたというのだ?」
 六郎左衛門は答えた。
「大殿と若殿は親子です。どちらに味方するかは決めかねます。ですから、頭の右側はそのままにし、左側だけを剃って参上した次第です」
 一同は爆笑した。
「ふざけたヤツめ!」
「それにしてもなんという頭だ!」
「うへへ!何度見直しても笑える〜」
 これ以後、ふざけたヤツのことを道化とか道化者というようになったという。

*            *            *

 弘治二年(1556)四月(または二月)、長良川の戦で斎藤道三と高政は激突した(「最強味」参照)
 道化六郎左衛門は道三方の先鋒として参戦し、華々しく散ったという。享年三十六。

[2014年11月末日執筆]
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参考文献はコチラ

※ 長良川の戦には道化清十郎も参戦したという説もあります。
※ 道化清十郎・助十郎兄弟は後に織田信長に仕えて戦功をあげましたが、元亀元年(1570)の近江坂本の戦で共に戦死したと伝えられています。

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