2.ストーカー

ホーム>バックナンバー2020>令和二年11月号(通算229号)鬼滅味 黄泉の国2.ストーカー

鬼滅の刃大人気
1.子殺し
2.ストーカー
3.贈賄
4.下半身露出

 伊弉諾尊は伊弉冉尊とよりを戻すために根の国を訪れた。
「何しに来たの?」
 伊弉冉尊は会ってくれたが、つれなかった。
「何って、君を連れ戻しに来たんだよ! 一緒に高天原に帰ろう!」
「嫌よ! 私達、離婚したのよ! 私はもう根の国の女王になっているのよ! 帰れるわけないでしょ!」
「それを何とか〜、時を戻そう!」
「むりむり。ああ眠たっ! 私、もう寝るから帰って!」
「朝になったら一緒に帰ってくれるのか?」
「しつこいわね! 行かないって言ってるでしょ!」
「俺はまだ君が好きなんだよ!」
 伊弉冉尊は少し考えて答えた。
「そんなに言うなら泉津醜女
(よもつしこめ)に相談してみるわ」
「ヨモツシコメ?」
「大雷
(おおいかずち)、火雷(ほのいかずち)、土雷(つちのいかずち)、稚雷(わかいかずち)、黒雷(くろいかずち)、山雷(やまつち)、野雷(のつち)、裂雷(さくいかずち)、八人そろって泉津醜女(よもつしこめ。泉津目狭女)。仕事のできる私の取り巻きたちよ」
「ってことは、まだ見込みはあるんだね?」
「かすかだけどね。――あ、秘密会議だから、絶対にのぞいちゃダメよ」
「わかった。終わるまで外で待ってるよ」
 伊弉諾尊は出ていった。

 伊弉冉尊は泉津醜女を集めて秘密会議を始めた。
「元ダンナが来てるんだけど、どう思う?」
 大雷が進言した。
「嫌いだからといって邪険にするのはよくありません。何と言ってもあの方は、西の強国・高天原の王なのです。ケンカするより仲良くするのが得策でしょう」
 火雷も勧めた。
「よりを戻されてはいかがですか? 根の国の女王と高天原の王が復縁すれば、同盟を結んだのと同じです。国が大きくなれば、利権も大きくなります。悪いことではないでしょう」
 土雷も促した。
「とりあえず、今は仲良くすることです。仲良くさえすれば、高天原を取り込むことができます。どうしても仲良くできないようなら、その時に考えればいいじゃないですか」
 稚雷も提案した。
「仲良しにはなれなくても、仲良しのフリをすることはできます。高天原を手に入れるためなら演技も必要でしょう」
 黒雷もそそのかした。
「高天原さえ手に入ったら、元ダンナはお払い箱です。頃合いを見計らって追い出すか殺すかすればいいでしょう。そうすれば、高天原は女王さまだけのものです」
「悪くないわね」
 伊弉冉尊も喜んだ。ニヤニヤが止まらなくなってきた。
「――私のものは私のもの。あいつのものもぜーんぶ私のもの。そうよ! それだわ! 国を奪ってからアイツをポイする! あはは! その手でいくわ! 愉快愉快! ケッケッケ!」
 ガタン!
 その時、何かが倒れる物音がした。
「誰?」
 大雷が物音のほうに火をかざしてみると、伊弉諾尊がのぞいているのが見えた。
 伊弉冉尊は激怒した。
「あんた! のぞくなと言っておいたのに、のぞいたわね!?」
 伊弉諾尊は居直った。
「ああ、見たよ! お前らの汚い話を全部聞いてたよ! まったく、幻滅したぜ! 俺が恋い焦がれた何にも知らないかわいい乙女はいったいどこにいっちまったんだ! お前はいつからこんなキッタネー欲深女に成り果てたんだ! そうだよ!お前は汚い膿
(うみ)だよ! そして、貴様ら取り巻きは、膿にたかるハエどもだよっ! もういい! お前に対する恋心なんてもはや微塵(みじん)もない! 終わりだ! 金輪際、二度とお前に会うことはないだろうっ!!」
 伊弉諾尊は吐き捨てて逃亡した。
 醜女たちが慌てて騒いだ。
「女王様、高天原が逃げていきますよ!」
「金づるが飛んでっちゃいますよっ!」
「いいんですか? すべてを失っても!?」
 伊弉冉尊は命じた。
「絶対に逃がすな! 追えっ! 捕まえて閉じ込めておくがいい!」
「御意!」
「御意!」
「御意!」

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