3.贈 賄 | ||||||||||||||
ホーム>バックナンバー2020>令和二年11月号(通算229号)鬼滅味 黄泉の国3.贈賄
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大雷、火雷、土雷、稚雷、黒雷、山雷、野雷、裂雷、八人そろって泉津醜女は追いかけた。
伊弉諾尊も逃げたが、ついに捕まってしまった。
伊弉諾尊は懇願した。
「頼むよ〜。逃してくれよ〜」
「ダメ」
「イイモノあげるから〜」
「イイモノ!?」
醜女たちの目が輝いた。
大雷は話がわかった。
「私達も鬼じゃないわ。イイモノが何かによっては逃してあげてもいいわ」
「ありかとうー」
「お礼はいいから、何をくれるか言いなさいよ」
伊弉諾尊は髪に巻いていた蔓草(つるくさ)の飾り見せた。
「これだよ。これをあげるよ。王しか身に着けられない高級品なんだぜ。これをあげるから逃してくれよ〜」
が、山雷や野雷がぶうたれた。
「あたしたち、八人いるのよ。一つのものをもらったって、残りの七人はどうするのよ?」
「そうよそうよ。くれるんなら、八人全員にくれなきゃ〜」
そのため、伊弉諾尊は市場に連れて行かせた。
市場で髪飾りを大量のブドウと交換して八人全員にごちそうしてあげたのである。
醜女たちは歓喜した。
「きょほほ! ブドウよブドウ!」
「おいしねー!」
「でらうめーや!」
「まー、スカッと!」
嵐のようにむさぼり食べる醜女たちを見て、伊弉諾尊は、
「じゃあ俺、そろそろ高天原に帰りますので」
と、こっそり席を立って再び逃走した。
しかし、すぐに完食した醜女たちに追いかけられて取り囲まれた。
伊弉諾尊は戸惑った。
「話が違うじゃないか! ごちそうしたら逃してくれる約束だろ?」
大雷は笑顔が怖かった。
「あたしたちはあなたの命を握っているのよ。命を救ったにしては、ちょっと、ねー」
「何が言いたい?」
「言わせないでよ。わかるでしょ〜?」
「まだ食べ足りないってか!? もう何もごちそうに替えられるものなんて持ってないよ!」
稚雷と裂雷が舌なめずりして近寄ってきた。
「あら! 耳のそばにかっこいい櫛(くし)が挿してある!」
「高そうな櫛よね〜? それも王さま限定のモノ〜?」
「わかったよ! ごちそうすりゃいいんでしょーが!」
伊弉諾尊は醜女たちに再び市場に連れて行かせると、櫛を大量のタケノコと交換してきて振る舞った。
「タケノコよタケノコ!」
「いっただきまーす!」
「悪いわね〜、何か強制したみたいで〜」
タケノコ料理に舌鼓を打っている醜女たちを見て、
「それではお先に帰りますので」
と、伊弉諾尊は三度逃走した。