4.拡張もできる田沼屋敷 | ||||||||||||||
ホーム>バックナンバー2019>令和元年11月号(通算217号)金品味 田沼意次賄賂生活4.拡張もできる田沼屋敷
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「毎日客人が多すぎて座敷に入りきれません」
「屋敷を拡張するか」
「拡張しようにも周囲に他家の屋敷があるのでできません」
「何とかできないものか」
田沼意次が困っている話を、武蔵忍(おし。埼玉県行田市)藩主になったばかりの阿部正敏(正殷)が聞きつけた。
(出世の好機到来!)
正敏は喜び、自宅に放火した。
ぶわお! めりめり!
ガラガラ! グシャーン!
正敏邸はほぼ全焼した。
自邸とはいえ別邸なので問題はなかった。
実は正敏の別邸は、田沼屋敷の隣にあったのである。
「別邸が燃えちゃったんで、もうこの土地はいりません。田沼さまに差し上げます〜」
正敏は土地を賄賂にするために放火したのであった。
しかし、意次は受け取らなかった。
「家臣間の土地のやり取りは違法なので受け取れません」
「そんな〜」
「幕府に返上するのは合法ですよ」
「合法でもそれでは意味ないんです。田沼さまに差し上げないと出世できないじゃないですか〜」
「大丈夫ですよ。幕府に返上しちゃってください。あなたの誠意は必ず通じますから」
正敏は別邸跡を幕府に返上した。
徳川家治も意次が屋敷を拡張したいことを聞いていた。
「阿部からの土地は田沼に与える」
将軍ですら意次に忖度(そんたく)したのである。
「ありがたき幸せ〜」
こうして意次は隣家の土地を手に入れ、まんまと屋敷の拡張に成功した。
まもなく正敏は奏者番(そうじゃばん)になり、大坂城代にも昇ることになるのである。
* * *
※ 阿部正敏の別邸火災は放火かどうか定かではありません。