3.決死突撃 | ||||||||||||||
ホーム>バックナンバー2023>令和五年4月号(通算258号)鼓舞味 甕破り柴田3.決死突撃
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本当は柴田勝家は困っていた。
「いよいよ水がなくなってきた」
十個ある大甕のうち、七つを空にしてしまったからである。
吉田次兵衛が苦笑した。
「六角の使者に見せつけるために無駄遣いをしちゃいましたからね〜」
「ああ、演技とはいえ、あれが痛かった」
「永原城から連絡がありました」
「佐久間か」
「いよいよ援軍に来てくれるそうです」
「相変わらず行動が遅いな」
「逃げ足だけは早いんですけどね」
織田家の有力四家臣の特徴を表した小唄がある。
木綿藤吉(羽柴秀吉)、米五郎左(丹羽長秀)、掛かれ柴田(柴田勝家)に、退き佐久間(佐久間信盛)
勝家は決意した。
「よし、ならば佐久間が来る前に、六角に一泡吹かせておこう!」
勝家は家来たちを全員集めて甕の水を振る舞った。
「みんな、水だぞ! 飲め飲め!」
「え? 今まで節水していたのに、いいんですか〜?」
「いいのだ。俺たちに明日はない!」
「どーゆーこと?」
「水を飲んだらみんなで打って出るからだ!」
「いよいよやりますか!」
「だから、みんなもっと飲め! 全部ガバガバ飲み干してしまえ!」
「そんな〜、いっぺんに飲めませんて〜」
「飲み切れないならこうしてやる!」
勝家は薙刀(なぎなた)を振りかぶると、
「ふんっ!」
石突きで甕を割った。
ばっちゃーん!
「みなの衆、このようにして六角承禎・義治めを討ち果たすのだ!」
ひーばっちゃーん!
ひーひーばぁちゃーん!
勝家は三つの甕を割り終えると、兜(かぶと)をかぶって馬にまたがって大音声で号令した。
「六角の連中は油断しておる! 我々が仕掛けてこないと高をくくっておる。このスキを突くのだ!
みなの衆、俺に続け! かかれーっ!!」
「おおーっ!」
「やってやるぜー!」
「何が大軍だ! 俺たちは烏合の衆には負けねー!!」
勝家に鼓舞された柴田勢はまるで弾丸となって六角の陣へ襲いかかった。
「わー!」
「ぎゃーー!!」
「でやーーー!!!」
六角軍は大いにビビった。
「何あれ!?」
「すごい形相の人達がいっぱい来る〜!」
「怖っ怖っ!!」
六角軍は押されて退却した。
「退くなー!」
承禎は理由がわからなかった。
「どうして敵はこんなに元気なんだ? 水がなくて弱っている説は全くウソだったってことかー!?」
考えているうちに敵は増え、味方が減っていくため、こう決断するしかなかった。
「野洲河原まで退けーっ!」