3.佐渡のサド | ||||||||||||||
ホーム>バックナンバー2010>3.佐渡のサド
|
何日も過ぎた。
「父に会わせてください!」
日野阿新丸は本間山城入道の顔を見るたびに同じことを頼んだが、彼は決して聞いてくれず、はぐらかすだけであった。
「それより、一緒にどこかにお出かけでもしないか?佐渡にはいいところがたくさんあるぞ。トキのほか色々な鳥も飛んでいるぞ。わしが案内してやろう」
「嫌です!」
「あっそう。誰が会わせてやるもんか」
資朝が閉じ込められている牢屋(ろうや)の場所は分かった。
しかし、番人が何人もいて、絶対に近づくことはできなかった。
「いったいどうすれば父に会わせてもらえるんだろう」
阿新丸は考えた。
「近いうちに資朝殿は処刑されるそうな」
山城入道の家来たちがそんなうわさをしているのも聞いてしまった。
(どうすればいいんだー!?)
そのとき、母が言っていたことを思い出した。
『いいですか。どんなことがあっても、「なんでもする」とだけは絶対に言ってはなりません』
阿新丸は決心した。
(そうだ!もうこれしかないんだ!)
その夜、阿新丸は山城入道の部屋を訪れた。
「お願いします!父に会わせてください!」
「くどい!」
「お願いします!後生です!どうか父を助けてください!」
「何度頼まれても、できないことはできないのだ!」
「私はどうなってもかまいません!なんでもしますから!」
と、山城入道の目がギラリと光った。
「ほう、なんでもするか」
「……」
「確かに今、お前はなんでもすると言ったな?」
「……」
「では、ナンデモしてもらおうか」
「……」
「今すぐ」
「……」
「こっちへ来なさい」
「……」
「もっと近くにっ」
「……」
しばらくして、本間三郎が障子を開けた。
「オヤジィ。幕府から使者が来ました。明かりがついてるから、まだ起きてるでしょ?」
スルスルスル。
三郎は障子を全開すると、そこにはまさかのナンデモ状態があった。
三郎は仰天して跳びのけぞった。
「ああっ!オッ、オヤジ!ななっ、なななっ何をしているだあーっっっ!?」
「見りゃ分かるだろう。ナンデモだ」
「うええ!とんでもねええーーーっっっ!!」
三郎は阿新丸の腕をつかんで外に連れ出すと、無理やり持仏堂に押し込めた。
バンバン!バンバン!
戸に何枚も板を打ち付けて出れないようにしてやった。
そうした上で、幕府からの書状を父に見せた。
「さっきのは何も見なかったことにします」
「ああ。そうしてくれるとありがたい」
「それより、この幕府からの書状を御覧ください」
「こ、これは……」
「そうです。日野資朝をすぐに処刑すべしと」
「まあ待て」
「え?」
「佐渡は鎌倉から遠い。命令が出たからといって、すぐに処刑することもあるまい。何日か後、十日ほど後、――いや、何か月か後でもいい」
「なぜ、処刑を延ばしたがるんで?」
「……」
「当てましょうか?」
「……」
「資朝を処刑すれば、阿新丸が京都へ帰っちまうからでしょ?」
「……」
「なんてことっすかあーっ!」
「わしは〜、わしはぁ〜、阿新丸を愛しているんじゃ〜」
「うわあ!やめろぉーーー!!」