★ 東京五輪はこれでもうけろ!

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2020東京五輪にたかるハエどもがすごすぎる
★ 東京五輪はこれでもうけろ!

 オリンピック大会は何にしても福の神様である。ロサンゼルス大会(1932)の例を見ても一億五千万円の金をロサンゼルス市だけでもうけている。ベルリン大会(1936)では経費を膨大(ぼうだい)にかけているが、なお差し引き二億円近くもうけている。…(中略)…
 いったいオリンピック東京大会ではどのくらいの人が東京に集まるかというと、第九回アムステルダム大会(1928)では開会中の遊覧延べ人員二百五十四万人、第十回ロサンゼルス大会では約四十万人、ベルリン大会では百二十万人となっている。そしてその消費額は、アムステルダム大会は記録がはっきりしていないが、ロサンゼルスでは約一億五千万円、ベルリンでは約一億八千万円になっている。それに開催地元で使う初設備の建設費等を加算すると、いずれも二億数千万円という巨額に達するのである。
 東京は近年外国人観光客が漸次増加し、年間四万三千人程度になっており、その消費額は約九千万円になっているが、1940年オリンピック大会にはちょうど皇紀二千六百年大博覧会時の参観も兼ねて少なくも十万人
(ベルリンでは三十万)の観光客があるものと予想されるから、その外人観光客一人平均二千円の消費(ロサンゼルスでは外人一人平均三千円宛使っている)としても二億円の金が東京に落ちる勘定になる。また、選手並びに役員は、…(中略)…一人平均二千円と見て六百万円である。
 その他、日本各地から集まる人員に至っては百万以下ということはあるまい。ことに日本人はお祭り騒ぎが好きだから大変なにぎわいだろうと思われる。それが一人平均五十円程度の金を使うとしても五千万円になる。以下合計して二億五千六百万円という大金が東京人の懐にころげ込むというわけである。
 その他、オリンピック大競技場(千四十万円)、東京市庁舎の建設
(二千万円)、東京駅の増築(六百八十万円)、大博覧会場(五百万円)、建国記念館等の建設、道路改修等の土木建築費は結局東京に落ちるわけであるからこれらを加算すればおそらく三億数千万円に上るであろう。

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 この後、もうかる仕事として、土木関係、乗り物、海運を挙げている。
 芝居や演劇ももうかるが、中でも歌舞伎が一番だという。

 外国人の見物人を十万人中の一割の一万とし、観劇料一人五円平均とせば五万円、それに日本各地からのお客様のうち一万人観劇するとしても五万円、合計十万円の金が一歌舞伎に落ちるわけである。その上大会終了後東京市の選手役員慰労にも歌舞伎招待となるはずだから、選手役員合計四千人で二万円、総計十二万円になるのだから豪気なものである。

 次にこれからどんな商売をすればもうかるか、コツを紹介している。

 まず直接どういう商売が繁昌するかを研究し、それによって間接の商売を考えることが金もうけのコツである。

 直接繁昌する商売として旅館・ホテル類を挙げ、具体案を出して指南している。

 中小資本をもって新たに宿舎を経営しようという者は、まず日本の地方人相手の旅館に目を着けるのがよい。外人相手の旅館はもうかるにはもうかるだろうが、設備に多大の金がかかり、これは既成大ホテルがすでに企てることだろうから、中小資本家としては、そう期待できない。もちろん場所は代々木(よよぎ。東京都渋谷区)・千駄ヶ谷(せんだがや。渋谷区)あたりが一番いいだろうが、同方面は競争者も多く地代も上がりつつあることなのだから、競技場への電車の便等を考慮して選定すればいい。そして素人下宿屋敷に安く宿泊できるようにしておけば思わぬ金もうけができるだろう。

 はい、なんか生々しくなって参りました。旅館の項ではホテル業は今後見込みありとしめて、次に食料品店のもうけ話の指南している。
「西洋人が多いからといって洋食を出せばいいものではない」
「支那
(しな。中華)料理や寒天料理がいいかもしれない」
「果物は生のままでも加工してもいい」
「西洋人はすき焼きや天ぷらに興味を持っている」
「コーヒーのおつまみとして落花生やポテトフライを出せば喜ばれる」
 などと述べた後、こう続けている。

 とにかく食べものは種々雑多で、ことに消耗品であるからその需要も大変なものだろう。よく西洋人の好みそうなものとか、または好奇心をそそるようなものを創生して売りだせば思わぬ金もうけができるというものである。
 ことに果物等はその時を目当てに今頃から品種を選択し優良品を作るようにしておけば、一獲大金をつかむこともできるのである。

 食料品店の次は、ガイドのもうけ話である。

 オリンピック大会東京開催に際して最も必要とされているのはガイドである。…(中略)…
 現在ガイドの免状を持っている者は二百五十名くらいいるが、…(中略)…オリンピックには十万からの外人が来訪するのであるから、とても間に合わないだろう。…(中略)…
 観光局あたりでは、今後出来る限りのガイドを養成するとともに1940年には語学に堪能な学生を動員しようと企てているから、語学の出来る学生はいい副業になるわけである。料金は一日十五円程度として一ヶ月四百五十円くらいの稼ぎ高になるのだからわるくはない。…(中略)…
 毎年一回警視庁でガイドの試験があるから、それにパスすればよい。外国語学校あたりの夜学でも二ヶ月通えば立派に外人と会話ができるようになるのだから今からでも遅くはない。

 続いて「玩具店(おもちゃ店)」のもうけ話である。

 日本製の玩具(がんぐ)が欧米人に喜ばれているのはその輸出額が年々増加しつつあるのをみても明らかであるが、これもいろいろ外国人の嗜好(しこう)を考慮して作れば相当売れるだろう。最近アメリカから帰った人の話によると箱根細工等は尽くアメリカ市場を横行しているといっていたが、箱根細工のうちミシン細工で、ビックリ箱のようなものや、麦わらを「シガーレットケース」に張ったものなど飛ぶように売れるそうである。
 また、昨年頃大騒ぎしたかの人形使節等の印象から日本製の人形等も相当の魅力があるだろう。玩具はいろいろ研究すれば、うまいもうけ口があろうと思われる。

 金魚店というもうけ話もある。

 金魚の輸出も近年非常に盛んになったようだが外国人にはあの可愛らしい金魚をたいそう珍しがるようで、これを格好の入れ物を作って入れ、携帯に便利のようにすれば結構売れるだろう。

 これは反則だろ!というような「サイン屋」も指南している。

 外国人の著名選手たちに何十枚何百枚とサインをさせ、これをテーブルの上に並べて売るのです。用紙は永く保存のできるものがよい。これは多少高く売っても飛ぶように売れること請け合いである。
 都合のいいことには先年フィリピン選手が来た時に女学生らがサインをしてもらうため、風教上面白くない問題を引き起こしたため今度は内務省
(ないむしょう)等でも相当取り締まることになっているので直接サインしてもらうことが難しくなるから、売れ行きも多いだろう。

「風教上面白くない問題」が気になるが、本題と関係ないので次に行く。
 次に登場するのが「ガイド派出所
(ガイド派遣会社)」なるもうけ話である。

 外国からたくさんのお客様が見えるわけだがこれら人々は、必ずガイドを必要とします。しかしガイドは一人で利用者をさがしてまわることは困難だから、一ヶ所にガイド派出所の看板をかがげ、外国語を話せる明朗な学生などを集めて、案内をさせるのです。資本としては派出所を借りる借賃と、宣伝ビラ製作費くらいのものです。一人当て十円ずつの謝礼をもらうにしても十人では百円、一ヶ月間では三千円になる。学生ですと一日三円か五円ずつやれば喜んで雇われるのだから、ちょっと機転をきかせてやれば小資本で相当もうかる商売である。

「写真現像焼付け専門店(カメラ店)」というのもある。

 現代は写真万能時代である。選手も見物人もほとんど写真機を持ってパチリパチリと撮るだろう。単に外人だけではなく日本人だって、その頃は猫も杓子(しゃくし)も写真機をいじくりまわすだろうから、その現像は現在の写真店だけではとても消化し切れないことはわかり切っている。ですから、オリンピック会場付近に写真現像焼付け専門店を出せば、きっと当たるだろう。うまくいけば一事業を起こす資本金ぐらいは稼げるに違いない。これは技術だけあればあとは資本らしい資本はかからない。会場付近にちょっとした家を借りて、看板だけ出しておけばよい。そして、ポスターの千枚くらいも刷って要所要所にはりつけておけばいいのだから、誰にでもできることだ。

 うーん、「ちょっとした家」を借りて「ポスター千枚」刷ったら「資本らしい資本はいらない」ことにはならないと思うのであるが、細かいことは突っ込まずに、「衣類洗濯店(クリーニング店)」のもうけ話と行こう。

 これはホテルや旅館等にいる者は、出入りの洗濯(せんたく)屋が間に合わすだろうが、百何十万というお客さんのことだからなかなか間に合わないだろう。だから今からはじめて、女中さんや旅館の番頭等と連絡をとって食い込んでおけば、その頃になったら相当繁昌するだろう。

 次、「衣類販売店(ブティック)」。

 これは現在のデパートや呉服店あたりで、目をつけているだろうが、会場付近にちょっとした店を持って、外人向きの長い着物(パジャマ・ハッピーコート・浴衣等)を並べておけば売れること請け合いである。できるなら浴衣とか、ハッピーコートなりはオリンピック模様でも付して、「オリンピック浴衣」とか、「ハッピー・オリンピック・コート」等という名称を付して売り出せば、外人ばかりではなく、日本人にも相当な需要はあるだろう。

 この後、「旗店」、「アイスクリームや氷店」、「ビールや果物店」、「煙草屋」、といった現代人でも思いつきやすそうなもうけ話があるが、「記念スタンプ店」というのもある。

 近来日本各地に記念スタンプ熱が非常に流行しているようだが、オリンピック開会中は地方人は必ず記念スタンプを押しにおしよせるだろう。これは、四角なり丸なりの中にオリンピックを象徴した図案を書かせ、これを木版にするだけだから、資本としては押し台のテーブルやスタンプインキ等を見積もっても十円もあれば充分だ。押し賃はお寺や神社では五銭ずつ取っているが、二銭ぐらいにして薄利多売主義でやれば、一日千人や二千人は大丈夫押しに来るだろう。またこれだけでは面白くないと思う者は絵ハガキ屋を兼ねて、絵ハガキを買った者に、ただで押させ買わない者からは二銭ずつ取るとしたら一挙両得というものだ。

 お土産品については絹織物、骨董品、書画、その他美術品、帽子と扇子(せんす)、ブロマイドについて述べた後、お土産の売れ行きを増す方法が記される。

   品物を選択せよ

 千載一遇の東京オリンピック大会を見物に来た人々に、ぜひ東京市として恥ずかしくない立派なお土産包を手にしてお帰しせねばならぬという自覚の下に積極的に商売をなすということは最も必要である。引っ込み思案になりビクビクしていては折角のいいお土産も先様に知れずに終わることになるのだから、名だたる日本商品を世界に紹介するという意味からも軍人が戦に臨むような真剣な心持ちで、ぜひ一品でもお持ち帰りを願うという心意気が最も必要である。

 これはさすがに戦中ならではの思考であろう。まさかこの五年後に米英とも戦争を始めようとは、どうやら思っていないようである。この項では、「誰に勧めても恥ずかしくないような優良品を生産」とか、「愛想よく明朗に」という常識も記している。

 最後に「間接の商売」の具体例を示している。
「簡易外国語学校を作ってもうけろ!」
「子供が喜びそうな玩具を開発しろ!」
「選手一覧表を刷って売れ!」
「簡単な会話辞典を発行しろ!」
東京日本の名所案内を発行しろ!」
「標語や歌を作って応募しろ!」
「土木関連企業の株を買え!」
「勝敗予想懸賞に応募しろ!」
「寿司の食材は売れるぞ!」
「清涼飲料水もいい!」
「提灯
(ちょうちん)や看板、装飾品もアリだ!」
「オリンピックを研究した新聞や雑誌を発行しろ!」
「テレビジョンを実用化しろ!」
「新たな交通機関を発明しろ!」
「運動能力が上がる薬品を開発しろ!」
「競技記録帳を発行しろ!」
「デパートに商品を持ち込め!」
「諸君、金もうけの準備を始めようではないか!来るべきインフレ、物価高により、準備なき者は破綻
(はたん)するであろう!」

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 この本を読んだ人の多くが金もうけの準備をしたであろう。
 ところが昭和十三年(1938)七月、日本日中戦争の激化によってオリンピック開催を返上しなければならなくなってしまった。
「準備なき者は破綻する!」
 皮肉なことに準備した者が先につぶれてしまったのである。
 では、これらマニュアルは何の役にも立たなかったのか?
 そんなことはない!
 これらのうちいくつかは、平成三十二年(2020)の東京五輪にも役立つであろう!
「諸君、金もうけの準備を始めようではないか!来るべきインフレ、物価高により、準備なき者は破綻するであろう!」
 インフレ、物価高、戦争間近は、当時も今も同じなのである。
 大丈夫である。
 次のようなことがない限り、東京五輪は開催されるであろう。
「噴火の火山灰すごすぎー!」
「首都直下地震で新国立競技場などが埋まっちまったー!」
「各地で増税反対デモ暴動化ー!」
「尖閣沖で日中交戦ー!」
「選手村がテロリストに乗っ取られたー!」
「戦争に行きたくない若手自衛隊員が議事堂を占拠ー!」
「ああっ、二件目の原発事故がー!」

[2015年7月末日執筆]
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