4.熱弁!「汚名の日」演説!!

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北朝鮮ミサイル発射問題で浮上した「敵基地攻撃論」
1.立案!ハワイ作戦!!
2.出撃!第一航空艦隊!! 
3.奇襲!真珠湾攻撃!! 
4.熱弁!「汚名の日」演説!!

 アメリカのワシントンでは真珠湾攻撃ギリギリまで(正確にはそれ以後も)日米交渉が続けられていた。
 が、アメリカの国務長官・ハルは一点張りだった。
日本ハル・ノートを受け入れない限り、一切の制裁は解除しない」
 駐米大使介添役・来栖三郎
(くるすさぶろう)は警告した。
「このままでは日本は暴発します! それでもいいんですかっ!」
「やむをえないことだ」
「それほどまでにあなた方は戦争をしたいのですかっ!?」
「したいはずがない! したければ貴方と交渉などしない!」
「いいや、あなた方が日本を追い詰めているのだ! 日本を窮鼠
(きゅうそ)たらしめんとしているのだっ!」
「えーい! 自分たちのしていることを棚に上げて何を言うか! 大統領は親中派だ! 日本中国をいじめなければこんなことにはならなかったのだ! それにもう手遅れだ。トージョーはすでにファイティングポーズをとっているではないかっ!」
東条がなんだ! 大日本帝国統帥権保持者は天皇陛下である! いかに東条が強権でも、最終決断は陛下が下されるのだ! せめてどうか、天皇に大統領の親書を! それさえ届けば最悪の事態だけは免れますっ!」
 来栖の熱意を受けてルーズベルトは承諾した。
 昭和天皇に親書を送ったのである。

 が、なぜか親書が届くのは大幅に遅れ、昭和天皇の手に届いたのは、十二月八日午前三時、つまり、第一次攻撃隊が今まさに真珠湾を攻撃しようとしている時であった。
 昭和天皇東条英機首相を呼んでしかりつけた。
「こんなものが今頃届けられるのは、どういうことだっ!?」
「あらら。何か手違いがあったようですね」
「わざとではないのか!」
「わざとではありません。過失ですよ。そうです。これは過失なんですよ」
「過失ではあるまい! 手紙が遅れるのは今まで一度や二度ではなかった! 何者かがわざと遅らせるように仕向けているといううわさを聞いたことがある」
「何者かとは誰ですか? うわさというものは、真実ではありませんよ」
「とにかく、手紙はすぐに届けるという約束ではないかっ!」
「約束? 陛下は約束を破って戦争に勝つより、約束を守って戦争に敗れるほうがいいとおっしゃるのですか?」
「……」
「戦争は悪です。それ自体が悪です。この世の中でもっとも卑劣
(ひれつ)で非情な悪なんです。それを今から行われる方が、きれいごとをおっしゃってはなりません。日本はすでに悪なんです。悪に染まってしまっているんです! だからこそ、戦争に勝たなければならないんです。戦争に勝って、勝って、勝ちまくって、少しでも多くの正義を手に入れなければならないんです! そうです。戦争に勝ち続けさえしていれば、すへての正義を手に入れることができるんです! 負ければすべてが消滅してしまうのです! 時には勝つために約束を反故にすることも必要でしょう。敵をだまし、味方をあざむくことも不可欠でしょう。すべては大日本帝国の勝利のために……。悲願である大東亜共栄圏建設のために……。皇室の恒久的繁栄、そして、天皇陛下。あなた様の輝かしい栄光のために……。天皇陛下、万歳ーっ!!」

 一方、真珠湾攻撃の報告を受けたルーズベルトはどう思ったであろうか。
 しかも強大を誇っていた太平洋艦隊はわずかな時間で壊滅してしまったのである。あまりの衝撃で思わず笑っちまったかもしれない。
「フッフッフ。これ以上の大惨敗がほかにあろうか……」
 ハルが聞いた。
「どうします? このことは国民に隠しておきますか?」 
 スチムソンは反発した。
「隠すことはない! ジャップが先に戦いを仕掛けてきたのだ! しかも宣戦布告より前に卑怯なだまし討ちを行ったのだ! ジャップは悪になった! 正義がアメリカの下に舞い降りてきたのだ! これはピンチではない! この上ないチャンスだ! 世界はこぞって正義のアメリカに味方するであろう!」

 十二月八日(日本時間十二月九日)ルーズベルトはアメリカ議会で「汚名の日」演説を行った。
「昨日、アメリカは日本の海軍によって突然、卑怯な攻撃を受けた。日本は右手でわが国と外交交渉を続けながら、左手でハワイ諸島の奇襲攻撃を行ったのである。おかげでハワイの太平洋艦隊はこてんぱんにやられてしまった……。同時に多くのアメリカ人の尊き命も失われてしまった……。そして日本は今も攻撃を続けている。グアム・香港・シンガポール・フィリピンなどを踏みにじり、太平洋を血の海に、デビル天国に変貌
(へんぼう)させようとしている。私は陸海軍の最高責任者として、祖国防衛のための手を尽くしてきた。が、もはや私にやれることは、反撃しかない。日本に宣戦布告するよりほかにないのだ! 諸君! 我が愛しき祖国が日本と戦うことを許したまえ! 正義はアメリカにある! そして、たとえどんな困難があっても、正義は必ず勝つものである! 世界は我々に味方してくれるであろう! 神も我々に協力してくれるであろう! 私は今日、議会に宣戦布告をするか否かを問いてみたい!」

 ルーズベルトの演説は国民たちを奮い立たせた。
日本は悪だ! 卑怯だ!」
「宣戦布告もせずに攻めてきたそうじゃないか。だまし討ちじゃないか!」
「何が平和だ! 何が反戦だ!」
「そんな甘ちゃんなことを言っているから、ジャップを今までのさばらせてきたのだ!」
「ジャップをたたきのめせ!」
「このまま放っておけば、アメリカ本土まで征服されるぞ!」
「座して死を待つことはない!」
「右のほおをたたかれたら、右も左もたたき返せ!」
「リメンバー、パールハーバー!
(真珠湾を忘れるな!)
 アメリカ国民は一つになった。
「戦争反対!」
 それまで反戦を訴えてきた人々は、突然息を潜めるか、百八十度転向してしまったのである。

 同日、アメリカ議会は全会一致で日本への宣戦布告を承認した。
「リメンバー、パールハーバー!」
 そして、この合言葉はアメリカ全土に広まり、やがて日本を地獄の底へと突き落とすことになるのであった。


[2006年7月末日執筆]
参考文献はコチラ

※ 役職・階級は真珠湾攻撃当時のものです。
※ アメリカが日本の真珠湾攻撃を事前に察知していたかどうかは意見の分かれるところですので、この物語ではあいまいにしておきました。私の見解としては、「真珠湾を攻撃することは薄々分かっていた」が「攻撃したところで日本が勝つとは思ってなかった」です。

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