1.火のないところに煙立つ | ||||||||||||||
ホーム>バックナンバー2022>令和四年5月号(通算247号)隆景味 平忠常の乱1.火のないところに煙立つ
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「父上、大変です!」
駆け込んできたのは平常将(たいらのつねまさ。平恒将)。
「どうした?」
聞き返したのは平忠常。
官職は下総権介。国司級の在庁官人である。
前職は上総介であり、下総だけではなく、上総にも土地を持っている大地主であった。
「安房守・平維忠(たいらのこれただ。または源惟忠)が何者かに焼き殺されました」
「ひどいことをするヤツがいるもんだな」
「驚くのはそれだけではありません」
「まだ何かあるのか?」
「下手人は下総権介・平忠常だとうわさされているんですよ」
「わしかい!」
「殺(や)ったんですか?」
「殺ってねーて!」
「へー」
「何だその疑いの目は!? 安房守が殺されたのはいつだ?」
「昨日です」
「昨日は一日中、庭でおぬしたちと犬追物をして、犬どもをキャンキャンいわせてたじゃないか」
「ですよね〜」
そうであった。
忠常が一日中在宅していたことは常将だけではなく、その弟・平常近(つねちか。平恒親)や郎党たちも確認していた。
にもかかわらず、下総国府から安房国府までトイレのように往復することなど、できるはずがなかった。
「父上、大変です!」
今度は常近が第二報をもたらした。
「またかい!」
「上総介・県犬養為政(あがたのいぬかいのためまさ)が反乱を起こした父上に恭順の意を示しました。なお、介の妻子は戦乱を避けるため、京へ逃したそうです」
「反乱なんて起こしてねーて!」
続けざまに郎党たちが第三報をもたらした。
「下総・上総・安房の国人たちが続々とこちらに集まってきます! みなみな殿とともに、悪政をしまくっている朝廷と戦いたいそうです!」
忠恒は訳がわからなかった。
「おかしい。どうなっているんだ? いつの間にかわしは反乱の盟主に祭り上げられてしまったようだ」
「どうするんですか?」
「集まってきた人々に理由を話して帰ってもらうしかあるまい」