2.火宅の人

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所在不明高齢者問題
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現在の六波羅(京都市東山区)周辺

「熱い!熱い!」
 平清盛が発病したのは「熱病」であった。
 現在でいう何の病気に当たるかは不明であるが、髄膜炎説・マラリア説・インフルエンザ説・腸チフス説などがあるという。

「父上が重病!」
 知らせを聞いて、平宗盛・平知盛・平重衡ら息子たちが清盛が寝ている平盛国
(もりくに)邸へ駆けつけてきた。
 宗盛は東国に、重衡は西国に、それぞれ源氏追討に向かうはすであったが、出陣を延期して戻ってきたのである。
 また、盛国は清盛の側近で、有名な平家納経にも携わっているという。
「侍医はなんと?」
「もはや手のほどこしようがないと」
「で、父上はいずこに?」
「奥の房
(へや)でございます」
 そのとき、
 ばううっ!
 と、奥の房から強烈な熱風が吹き付けてきた。
「うっ!」
 宗盛は身構えて瞬時にどっと大汗を噴いた。
「まさか、この熱風の主が父上だというのか……」
 宗盛らは奥の房に向かった。
 ジリジリ!カンカン!
 近づくほどに暑くなってきた。
「やはり、そうなのか……」
 あまりの暑さに、お付きの女房たちも遠巻きにして、清盛に近づくことができなかった。
「宗盛さま、こちらです」
「入道さまのおそば五間以内へはとても近づくことはできません」
 それでも宗盛らは近づかねばならなかった。
 チンチン!ジュワッチ!
 熱波に耐え、熱風を押しのけて宗盛らは部屋に入った。
「父上!」
 清盛は真っ赤にゆでられているようであった。
「熱い〜、熱い〜」
 それしか言えず、鉄板でジュージュー焼かれているかようにのた打ち回っていた。
 宗盛は女房たちをしかった。
「何をしている!父上が苦しがっているではないか!水を持て!早く体を冷やすのだ!」
「それが、無駄なのでございます〜。冷やそうとしても水はすぐに沸騰して蒸発してしまうのでございます」
「ぬぬぬ……。無駄だと分かっていても冷やすしかないではないか!」
 知盛が助言した。
「霊験あらたかなる水であれば、冷やすことができるのでは?」
 宗盛は思いついた。
「そうだ!比叡山
(京都府滋賀県境)の水だ!父上が出家された比叡山の水ならきっと熱も下がるはずだ」

 清盛は仁安三年(1168)に天台座主・明雲(みょううん。「村上源氏系図」参照)を師として出家している。そのときも病気が治らなかったため出家したのであった。
 宗盛らは比叡山の千手井
(せんじゅい)の水を汲みに行かせた。
 で、それを石の浴槽に入れ、清盛に入らせたのである。
「ふぃぃぃ〜〜〜。うう〜む。少し楽ぅぅぅ〜〜〜」
 じゅじゅじゅー!ぼこぼこぼこ!ぐつぐつぐつ!
 が、水はすぐに沸騰、
 ぼこぼこ!ぼこぼこ!しゅしゅしゅーう!しゅしゅっぽー!しゅしゅっぽー!からっぽー!
 と、瞬く間にすべて蒸発してしまったのである。
 じゅば!ばおーう!ぷすぷすぷす!じゅう!
 しかも飛び散った水は炎を上げて燃え上がり、黒煙となって消えてしまった。
 水がかれると清盛は再びのた打ち回った。
「熱い〜!熱すぎる〜!前より熱いよう〜〜〜!!」
「なんてことだ!」
 宗盛は恐怖した。
「これは尋常な病気ではない。ひょっとして、たたりではあるまいか?」
 重衡の顔を見て、思い当たることがあった。
「そうだ!これはお前が焼いた東大寺大仏のたたりに違いない!きっとそうだ!この熱がりようは、お前に焼き殺された坊主たちの恨みの叫びなのだ!」
「え!オレのせい〜!?」

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