3.将を射んと欲すればまず馬を射よ

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緊迫!朝鮮半島!!
1.孝徳天皇即位
2.韓人が入鹿を殺した?
3.将を射んと欲すればまず馬を射よ
4.中大兄皇子の秘密
5.古人大兄皇子の変

 中大兄皇子は、古人大兄皇子の側近・吉備笠垂(きびのかさのしだる。志太留)吉野から呼び寄せた。
 古人大兄皇子に届け物があるとウソをついたのである。
「届け物とは何でしょうか?」
「実はそれはウソだ。本当のことを明かすと、お前に古人皇子の謀反を密告してもらいたいのだ」
 垂は青ざめた。
「我が主君は優しい方です。主君の性格は皇太子さまもよく御存知のはずです。主君を初め我々一同、誰一人として朝廷に二心はございません」
「あ、そう。ちなみにお前が謀反を密告すれば、二階級三階級特進は当たり前だぞ」
「……」
吉野で隠棲している古人皇子の下にいたところで出世の見込みはない。一生ないぞ。このままではお前の人生はもう終わっている」
「……」
「そうだ!出世に加え、功田
(こうでん。功績によって与えられる田)二十町も与えよう」
「……!」
「欲しいんだろ〜?」
「ううう……」
「顔に欲しいと描いてあるぞお〜」
「いじわるぅ〜。欲しくないわけないじゃないですかぁ〜」
「だったら古人が謀反をたくらんでいると、ウソでもいいから言ってしまうんだな」
「ううう……。いくらなんでも、ウソは言えませんて」
「じゃあ出世の話も田んぼの話もナシだ」
「そんなあ〜」
「ならば、この話はほかの古人の側近たちに持ちかけよう。蘇我田口川堀
(そがのたぐちのかわほり)、物部朴井椎子(もののべのえのいのしいのみ)、倭漢文麻呂(やまとのあやのふみのまろ。書麻呂)、朴市秦田来津(えちのはたのたくつ)、これだけ持ちかければ、絶対に誰か一人は乗るであろう」
「……」
「そうなったら、お前は謀反に組したという罪で処刑だ」
「ひえ!処刑!」
 垂は仰天した。
「そういうことだ。じゃあ、またな。――あ、次会うときは、お前は首から上だけになっていると思うが」
「ちょちょちょ!ちょっと待ってくださいっ!」
 席を立とうとした中大兄皇子に、垂はすがりついた。
「言います!言います〜!そうでした!今、思い出しました!我が主君、古人皇子は謀反をたくらんでいます〜」
 中大兄皇子はうれしそうに振り返えると、今初めて聞いたようにわざとらしく驚いた。
「何いぃー!あの温厚な古人皇子が、まさかまさかの謀反だとぉー!――うーん、残念だ。ウソだと信じたい思いは山々だが、悪は悪だ。謀反人を処罰しなければ、周囲の人々に示しがつかぬ。仕方がない。ここは『泣いて馬謖
(ばしょく)を斬る』しかないであろう」

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