4.中大兄皇子の秘密 | ||||||||||||||
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大化元年(645)九月、中大兄皇子は古人大兄皇子を討つため、菟田朴室古(うだのえむろのふる)・高麗宮知(こまのみやしり)以下兵若干を吉野に遣わした。これは征討というより、尋問であろう。
「吉備笠垂があなたが謀反をたくらんでいると密告してきた。反逆罪で逮捕する」
しかし、古人大兄皇子は頑として跳ね除けた。
「私は無実だ。逮捕される筋合いはない」
「ならばここで死んでもらう!」
「私を殺すのか!私は皇太子の秘密を握っている!私を殺せば、皇太子の秘密も葬られるんだぞ!」
「なんだと!この謀反人があ!」
剣を振りかぶる古を宮知が制し、古人大兄皇子に尋ねた。
「皇太子殿下は聞きたいことがあるそうだ。『天皇記』はどこにある?」
「『天皇記』?あー、あれは蘇我蝦夷が自殺したときに一緒に燃えたのではなかったのか?」
「それが、皇太子殿下は『天皇記』をあなたが持っているのではないかと疑っている」
「ワハハ!」
古人大兄皇子は笑って聞き返した。
「ひょっとしてそこにも何か皇太子に都合の悪いことが書かれていたのか?ウソというものは一つつくと、今までのホントをすべてひっくり返さなければならなくなるものだ。御苦労なことだ。しかし残念ながら、私の知っている秘密は『天皇記』とは関係ない」
「つまり、『天皇記』はここにはないと?」
「あるはずがない」
古と宮知は飛鳥に帰って中大兄皇子に報告した。
「なんだと?古人皇子は『天皇記』を持ってないと言い張るのか?」
「はあ、本当にないようでしたが。ただ――」
「ただ?」
「古人皇子は『私は皇太子の秘密を握っている』と申しておりました」
「……!」
「それも『天皇記』とは関係ないことのようです」
「……!!」
中大兄皇子は目をむいて色を失った。めまいを起こしたかのように、危うく倒れそうにまでなった。
古は不思議がった。
「いったい何の秘密でしょうか?」
「そそそっ、そんなことは、うぬらが知らなくてもいいことだっ!」
「ああ。――ってことはアッチ系ですねっ?」
「違うー!もう下がれーっ!」
二人が退室すると、中大兄皇子はひざを落としてブルブルと震えた。嫌な汗を吹き出しながら、嫌な笑みを浮かべた。
「であろうな……。よく考えてみれば、異母兄が知らないはずがない……」
中大兄皇子は心に決めた。
「やはり、古人皇子には、死んでもらわねばならぬ……」