3.第一次分倍河原の戦(1333.5/15)

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紛争に明け暮れる世界
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2.久米川の戦(1333.5/12)
3.第一次分倍河原の戦(1333.5/15)
4.第二次分倍河原の戦(1333.5/16)
現在の分倍河原周辺(東京都府中市)

 五月十四日夜半、分倍河原にある桜田貞国の陣所に幕府の援軍が到着した。
 西征に向けるはずであった北条泰家
(ほうじょうやすいえ)・塩田国時(しおたくにとき)・安保道堪(あぼどうかん・どうたん・道潭)・城越後守(じょうえちごのかみ)・長崎時光(ながさきときみつ)・佐藤左衛門入道(さとうさえもんにゅうどう)・安東高貞(あんどうたかさだ)・横溝五郎(よこみぞごろう)・南部孫二郎(なんぶまごじろう)・新開頼行(しんかいよりゆき)・三浦氏明(みうらうじあき)ら十万騎を新田軍の迎撃に加えさせたのである。
 これで幕府軍は合わせて十六万騎となった。
「得宗より賢い弟君が大軍を率いて来援!」
「やったー!これで新田のヤツラと互角に戦えるぞ〜」
「少しも怖くないわー」

 幕府の陣所が騒いでいると聞いて、眠りかかっていた新田義貞が不審がった。
「何だ?何やら敵の陣所がバタバタしていないか?」
 船田義昌が不安がった。
「まさか、この前の朝駆けの仕返しに、夜討ちでも仕掛けてくるのでは?」
 脇屋義助が勇み立った。
「そんなことはさせねえ!」 
 義貞も命令した。
「敵の思い通りにさせるな!攻められる前にこちらから攻めよ!」

 五月十五日未明、新田軍はひそかに分倍河原の暗闇へと向かった。
 が、幕府軍はその行動を読んでいた。
「バカめ!朝駆けがあれば夜討ちもあるくらい予想できるわっ!」 
 泰家は弓の手だれ三千人を前面に押し出すと、一斉に矢を放たせた。
 ひゅひゅん!
 ひゅひゅん!
 ひゅひゅん!
 ブシ!
 バシ!
 ガシシ!
 暗闇での矢の豪雨に、新田軍は進めなくなった。
「今だ!攻め込めー!」
 幕府軍が押し出してきた。
 歓声が地鳴りのようであった。
 新田軍のたじろいだ。
「あれ?なんかこの前より敵の声がでかい」
「声がでかいというより、声が多い」
「ひょっとして、敵は増えてるのか?」
「まさか、援軍が来たのか?」
 新田軍は浮足立った。
 近くの味方が各個敵に包囲され、次々と討ち取られていった。
 義貞も敵に取り囲まれた。
「わうわー!おらおらおら!」
 義貞は刃物を持った凶悪犯のように暴れまわったが、敵の数が減ることはなかった。
「退けー!」
 ついに新田軍は堀金
(ほりかね。堀兼。埼玉県狭山市)撤退した。
 この戦いで二十万騎以上いた新田軍の過半が離散・逃亡してしまい、わずか六万騎にまで激減してしまったという。

 幕府軍は追撃しなかった。
 貞国は追撃を勧めた。
「御大将!今追撃すれば、義貞めを討ち取ることができましょう!」
 泰家は動かなかった。
「深追いは危険だ」
「それは敵地でのこと。地の利は我々にあるのです!それに、敵は離散しました!幕府に負ける要素はありません!」
 それでも泰家は聞かなかった。
「我々は昨日の夜にここに着いたばかりなのだぞ。まだ誰も一睡もしていないのだぞ。追撃の最中に眠ってしまったら、それこそ返り討ちにされてしまうではないか」
「……」
「案ずるな。この大勝で反乱軍の勢いを止めることができた。ヤツラははかないの夢を見ていたのだ。夢から覚めた家来どもが自分から主君の首を持参してくるかもしれないぞ」
 後悔先に立たずとはこのことであろう。
 失敗というものは失敗後に気づくものであって、最中に気づくことはないのである。

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