ホーム>バックナンバー2016>1.やっちゃえ!
三つの頭が光り輝いていた。
筑前博多で対馬海峡を望んでいた入道トリオであった。
「昔、この博多湾を夷狄(いてき)の大船団が埋め尽くしたことがあった」
「こんなに広いのに、埋め尽くすなんて信じられねえな」
「夷狄の大軍に対し、我々の先祖は命がけで戦って追い払った」
「マジですげえぜ」
「それなのに、鎌倉幕府からの恩賞はスズメの涙の土地だけだった」
「土地をもらえたヤツはいいぜ。うちの先祖なんて文永の役の時には甲冑(かっちゅう)一つだけだった。弘安の役では何ももらってない」
「代を経て、我々子孫は貧乏になった」
「貧乏も貧乏、クソ貧乏ですよ」
「訴訟を起こしても、勝てねえし」
「幕府は自分たちが損をする判決は出さない」
「賄賂をくれたヤツに、露骨に有利な判決を出しやがった」
「幕閣連中はカネに狂っているんですよ」
「カネのないわしらは、裁判で勝ち目はねえ」
「どうすりゃいいんですか?」
「法律からはみ出して戦うしかない」
「力ずくかよ?」
「実際、力ずくでも幕府を倒したいと考えている過激な連中はたくさんいる」
「俺たちもだろ?」
「すでに戦っている反幕府勢力も各地に登場している」
「主上(後醍醐天皇。「秘密味」参照)や悪党(楠木正成。「窮地味」参照)どもだな?」
「悪党って呼ぶな。彼らは革命軍だ。過激派武装組織じゃねえ」
「でも、主上は捕まって隠岐に閉じ込められちまったじゃないか」
「それがな、脱出に成功したそうだ(「隠岐味」参照)」
「何だって!」
「伯耆の土豪(名和長年)の力を借りて再挙兵したそうだ」
「朗報じゃねえか!」
「でも、主上って、二度(正中の変・元弘の変)も幕府にたたかれているんですよね? 懲りないお方ですよねー」
「根性は見上げたもんだ! 俺は主上にかけるぜ!」
「主上が天下を取れば、世の中は良くなるかな?」
「幕府よりマシだろ! 溺れる者はワラをもつかむのだ」
「そのつもりなら、ワラを手に入れなければなるまい」
「ワラ?」
「ああ。主上の配下であることを示す『錦の御旗』だ。その旗を掲げれば、反幕府軍同士で連携することができる」
「なるほどそれは必携ですね」
「注文すれば宅配してくれるのか?」
「どこに届けさせる?」
「では、代表して少弐殿の所に」
「え! わしんとこ?」
「おぬしは筑前・対馬二国の守護だ。身分的には一番上だぜ」
「まあ、そうだが」
こうして筑前対馬守護・少弐貞経(しょうにさだつね。妙恵。「少弐氏系図」参照)宅に、後醍醐天皇から「錦の御旗」が届けられた。
残り二人とは、豊後守護・大友貞宗(おおともさだむね。具簡。「大友氏系図」参照)と、肥後の武将・菊池武時(きくちたけとき。寂阿。「菊池氏系図」参照)。
三人は元弘三年(1333)三月十四日を決起の日と定め、それぞれ国へ帰って戦いの準備を始めた。


