3.やるしかねえ!

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平成二十八年熊本地震
1.やっちゃえ!
2.やめとこ
3.やるしかねえ!

 さて、菊池武時を裏切ってしとめちゃった少弐貞経と大友貞宗だったが、東の情勢がおかしくなってきた。
「幕府軍大将・名越高家
(なごえたかいえ。北条高家)様、お討ち死にー!」
「幕府軍有力武将・足利高氏
殿、反幕府軍に寝返りー!」
「千早城攻めの幕府軍、南都
(奈良)へ撤退ー!」
 貞経は困った。
 中でも極めつけは、
「反幕府軍、六波羅探題を攻略ー!」
 であった。
「幕府の西国本部の六波羅までも! こんなはずでは……」
 貞経は後悔した。
「菊池の先見は正しかった……」
 後悔先に立たずであった。
「ヤツはもういない。わしはもう後戻りできないのだ」
 貞経は嘆いた。
 大友貞宗が駆けつけてきた。
「まずいですよ〜。非常にまずいですよ〜。これじゃあもうじき反幕府軍が大勢やって来て、鎮西探題もつぶされちゃいますよ〜。ついでに私たちもやられちゃいますよ〜。ど〜するんですか〜」
「そうだ!」
 貞経はひらめいた。
「わしは後戻りできるいい方法を思いついた」
「そんな方法はありませんよ〜」
「いや、ある。探題の首を反幕府軍に差し出せばいい」
「!」
「で、『探題のヤローが反幕府軍と戦おうって誘ってきましたけど、わしはきっぱり断わりました〜』って、しらばくれればいい」
「!!」
「ということだ。形勢は完全に逆転した! 今なら探題を討つといえば味方はいくらでも集まる! 一緒に鎮西探題赤橋英時を討ちに行こうではないか!」
「……」
 貞宗には断る理由はなかった。
 貞経は使いを送って菊池武重も誘った。
「貴殿の父御は正しかった。わしらは今度こそ探題を討つ。貴殿も一緒に討ちに行こうではないか」
 武重は断った。
「親父を殺した連中と誰が行動を共にするもんか。バーカ!」
 当然の拒否であった。

 東の凶変は赤橋英時の耳にも入っていた。
「探題」
「六郎か?」
「はい」
「また敗報だな?」
「いえ、 少弐・大友の両入道に、謀反の動きがあるとのこと」
「またヤツラか。裏切り者は何度でも裏切るものだ」
「拙者が少弐入道の様子を見てきましょう」
「そうだな。言動が疑わしければ、その場で消してこい」
「了解」

 長岡六郎は少弐貞経の館を訪ねた。
 貞経は怖くて会わなかった。
 客人の姿を中から隠れ見て、
「どう思う?」
 と、息子に意見を求めた。
 息子とは、少弐頼尚
(よりひさ)
「ワナでしょう。会わないほうがよろしいかと。代わりに私が会いましょう」
 頼尚は武芸に秀でていた。
「待たせましたね。我が父は病気で寝込んでいますので、話なら私が代わりに聞きましょう。どうです? 碁でもやりながら」
 頼尚が碁盤と碁石を持ってきて座った。
 それでも長岡は、縁側から館のあちこちに視線をやっていた。
「館の人々は忙しそうですな。楯を作ったり、矢じりを磨いたり」
「ええ、もうじき反幕府軍との大戦が始まるんでしょ? そのための準備ですよ」
「旗指物も並んでいる」
「そりゃあ、戦には旗も必要ですから」
「変わった旗もある」
「え?」
「まるで『錦の御旗』のような」
「……」
「いえ、独り言です。碁でもやりますか」
 長岡は座りにきた。
 太刀をわきに置くふりをして、いきなり抜いてきた。
 ちゃっ!
「謀反人め!」
 ドカッ!
 長岡が突き出した刃が、頼尚を貫くことはなかった。
 身代わりになったのは、頼尚がとっさに差し出した碁盤であった。
 ギリギリギリ。
「ぬうう!」
 ばっ!
 頼尚は長岡を組み伏せた。
 長岡も負けずに上になった。
 二人はゴロンゴロンと庭に転がり落ちた。
 最後は頼尚が上になり、脇差で三度刺したところ、長岡は動かなくなった。

「大丈夫か?」
 カタが付いたのを見て、貞経が駆けつけてきた。
「やはり探題はすでに感づいているようです」
「グズグズしてはおられぬ」

 元弘三年(1333)五月二十五日、少弐貞経・大友貞宗ら七千余騎は鎮西探題館を攻囲した。
 赤橋英時に味方する者は少なく、英時は今度こそ自害するしかなかった。享年不明。
 一族郎党三百四十人が運命を共にしたという。

[2016年4月末日執筆]
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