3.恨むなよ

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体罰はやめるべきか?
1.怖いよ
2.近づかないよ
3.恨むなよ
4.終わりだよ

 僕は女だけではなく、男も怖かった。
 ようするに人間恐怖症だった。
 僕は恐怖を紛らわせるために、笙を吹き、筝を弾き、学問にいそしんだ。
 その結果、そこそこ知識人になり、
「賢人大将」
 と、呼ばれるようになった。
 大将というのは右近衛大将
(うこのえたいしょう・うこんえのだいしょう。「近衛府の構成」参照)を兼任していたからだ。

藤原忠平政権閣僚(936.7/)

官 職 官 位 氏 名  備考
摂政左大臣 従一位 藤原忠平
右大臣 従二位 藤原仲平 忠平の兄。
大納言 正三位 藤原保忠 忠平の甥。
大納言 正三位 藤原恒佐
中納言 従三位 藤原扶幹 政界最長老。
中納言 従三位 平 伊望
中納言 従三位 藤原実頼 忠平の長男。
参 議 正四位下 源 清蔭
参 議 正四位下 源 是茂
参 議 正四位下 藤原伊衡 朦朧味」主人公。
参 議 正四位下 橘 公頼
参 議 正四位下 藤原当幹
参 議 正四位下 平 時望
参 議 従四位上 紀 淑光
参 議 従四位下 藤原師輔 忠平の次男。

 僕は雅楽家だったが、公卿としても政界ナンバースリーまで昇進した。
 最終的な僕の上司は、摂政左大臣忠平叔父と、右大臣の仲平
(なかひら)叔父しかいなかった(「北家系図参照」)
「八条大納言
 僕はそんなふうにも呼ばれていた。
 八条に住んでいる大納言という意味だ。
 八条とは、平安京の下の下、さびしいところだった。
 僕はそこからはるばる大内裏
(だいだいり。官庁街)まで牛車で出勤していた。

 冬の出勤はつらかった。
 寒いので、温石
(おんじゃく)を懐に入れて出かける。
 温石とは石を焼いて綿などで包んだもので、今でいう懐炉
(かいろ)だ。
 いつの頃からか、僕は温石ではなく、「温餅
(おんべい)」を携帯するようになった。
 石の代わりに餅
(もち)を焼いて包んでも懐炉のようになることを発見したのだった。
「これはいい!」
 ちょうど大内裏に着いた頃、「温餅」は冷める。
 冷めた餅は、
「今日も御苦労」
 と、左右の車副
(くるまぞい。警備員)や牛飼童(うしかいわらわ・うしかいわらわべ。運転手)に分けてやるのだ。
 餅をもらった彼らは笑顔になる。
「ありがとうございます〜」
 餅はハレの食べ物で、彼らにとっては御馳走だった。
 僕も満足だった。
(こうしている限り、こいつらはずっと僕の味方だ)
 そうなのだ。
 僕は人に裏切られるのが怖いだけなのだった。

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