1.串 刺 | ||||||||||||||
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幕府軍に塩飽聖遠(しわくしょうえん)という武士がいた。
讃岐の塩飽諸島出身だったが、長年得宗家に仕えていた。
聖遠は子の忠頼(ただより)を呼んだ。
「得宗家はもう終わりだ。世話になったわしも自害することにした。しかし得宗家に仕えていないお前には関係ないことだ。どうか逃れてわしの菩提を弔ってほしい」
忠頼は泣いた。
涙を流して父に反論した。
「確かに私は得宗家には仕えていません。しかし、親が恩を受けているのに、子は恩を受けていないことはありません。私も武士の端くれです。武士は逃げたりはしませんし、子は親を捨てたりはしません。親が冥途に逝くというのであれば、私が道案内をして差し上げましょう」
忠頼は袖(そで)の下から短刀を抜くと、
ブス!
気づかれないよう着物の下からひそかに腹を刺した。
しばらく忠頼はそのままの姿勢で座っていたが、異変を感じた聖遠が、
「おい、どうした?」
と、声をかけてみたところ、すでに事切れていた。
それを見た弟の四郎も短刀を抜いた。
「父上、私も冥途のお供をします」
「待て!先の逝くはこのわしじゃ。お前はわしを討った後、その後で自害せよ」
四郎が短刀を収めると、聖遠は辞世の句を書いた。
提持吹毛
切断虚空
大火聚裏
一道清風
書き終わると、
「さあ、討て」
聖遠が命じたので、四郎は上半身裸になって父の首を斬ると、自分もその太刀で腹を刺し貫いてうつぶせに倒れた。
郎党たちが気付いて騒いだ。
「ああっ!殿も若殿も死んでる!」
倒れた四郎の太刀先が上を向いていたのを見て、
「拙者も死ぬぞ!えい!」
ばっ!ぶすぅ!
「うう〜」
郎党の一人が飛び込んで串刺しになった。
「私もだ!」
ばっ!ぶすぅ!
「いてぇ〜」
二人目の郎党も同様に飛び込んで串刺しになった。
「おらも!」
ぐばぁ!ぶしゅ!
「あおう〜」
三人目の郎党は刃足らずだったのかしばらくもがいていたが、ほどなくして遺体の四枚重ねが完成した。
似たような光景を魚市場で見たことがある。