3.偽 装

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「イスラム国」滅亡
1.串 刺
2.名 誉
3.偽 装
4.潜 入
5.心 中

 北条高時の弟・北条泰家(やすいえ)は、次の手を考えていた。
 次の手とは、幕府滅亡後の作戦である。
「戦は完敗だ。このままでは得宗家は新田に滅ぼされてしまう」
 泰家は家来の諏訪盛高
(すわもりたか)を呼んだ。
「そうさせないため、俺は自害したふりをして陸奥に逃げる。で、折を見て再挙するつもりだ」
「良い考えかと」
「そこでお前には頼みがある」
「何でしょう?」
「兄の子のうち、太郎
(邦時)は五大院宗繁(ごだいいんむねしげ)がかくまうことにしたが(「足掻味」参照)、二郎がいまだ母の二位局のもとにいる。これを連れ出してお前の故郷でかくまってほしいのだ」
 盛高の故郷とは、信濃の諏訪である。
「分かりました」
 盛高は二位局がいる扇谷
(おうぎがやつ)に向かった。
「二郎様をお預かりに参りました」
 二位局は喜んだ。
「二郎をかくまってくれるのですね?」
 盛高はウソをついた。
「いえ、追手は強敵です。かくまったところで逃げ切れません。二郎様は東勝寺へお連れし、得宗様らと最期を共にします」
「あの人のもとで殺すというのですか!?」
「いえ、みんなであの世に逝きます」
「同じじゃないですか!」
「さあ、二郎様をお渡しください」
「嫌です!かくまってくれないなら渡せるわけありません!太郎は五大院がかくまってくれることになったんです!太郎はかくまえるのに、二郎だけかくまえないなんてことはありません!」
 この時点でまだ太郎邦時はかくまわれていたが、盛高はウソをついた。
「残念ながら、太郎様は殺されました」
「え?」
「追っ手に居所がばれ、五大院もろとも殺されてしまいました」
「!」
「このままでは二郎様の運命も同じです」
「……」
「さあ!敵の刃で散らされるよりは、お父君に抱かれて死にましょう!」
「嫌です!」
 二位局は二郎にしがみついた。
 盛高は強引に母子を引き離した。
「二郎!二郎!」
 盛高が二郎を馬に乗せて駆け出しても、二位局は裸足でその後を追ってきた。
「わああ!二郎〜」
 そして、追いつけないとわかると、井戸に身を投げて死んでしまった。
 こうして盛高にかくまわれ育てられた二郎は、後に北条時行として中先代の乱を起こすことになるのである。

 一方、泰家は家来たちに自邸を放火させて一家心中を偽装し、自身は新田軍の負傷兵のふりをして武蔵へ落ち、陸奥へ行方をくらませた。
 後に北条時興と名乗って京都で兵を挙げるのは、この泰家である。

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