4.ヤミ金融の暗躍 | ||||||||||||||
ホーム>バックナンバー2004>ヤミ金融の台頭
|
弘安七年(1284)四月四日、執権・北条時宗が没した。享年三十四。
仲の悪い安達泰盛と平頼綱の間を取り持っていた巨星が消滅してしまったのである。
後を継いだのは、子の貞時十四歳。
当然実権はなく、彼の外舅(または外祖父)泰盛が政治を主導した。
頼綱はおもしろくなかった。
「だめだ。泰盛が政治を執れば、御内人をないがしろにし、御家人を贔屓(ひいき)するに決まっている」
かといって、頼綱は自分が政治を執るとは言えなかった。
泰盛は頼綱よりも、ずっとずっと人望があったからである。言い出したところでみんなから無視されるに決まっていた。
「ふん!
人望がなんだ!
人望よりもすごいものを、おれは貯め込んでいるんだ!」
頼綱が貯め込んでいるものとは、カネだった。
頼綱はほえた。
「これからはカネの時代だ! カネが政治を動かす時代になるんだっ! 人望がなんだ!
そんなもの、カネの前にはひとたまりもないわっ!」
この頃から為替の制度が起こり、借上・問丸といった富商が現れるようになるが、頼綱は、彼らの便宜を図ってやる代わりに賄賂(わいろ)を頂戴していたのであろう。
御内人の中には、安東蓮聖(あんどう・あんとうれんしょう)のように、自ら金融業や運送業を営業し、巨万の富を蓄える者もいた。
「お金を貸してあげますよ」
高利貸しの誘惑に、
「え!
ほんとに!
助かる〜」
代々続いてきた分割相続や、二度の蒙古襲来で窮乏した御家人たちが喜んで飛びついてきた。
でも、高利貸しなので、金利がべらぼうに高い。
御家人たちは金が返せず、借金がかさみ、かえって生活が苦しくなる。
そこへ別の高利貸しが登場する。
「お金を貸してあげますよ」
「え!
ほんとに!
助かる〜」
御家人たちは借金を返すために借金をし始める。
こうなったらもうドツボである。
当時はもちろん、法定金利や破産宣告やブラックリストなんてものはない。借金はただ、天文学的に膨れ上がっていくだけである。
そして、借金取りは返すまで何度でも何度でも永久に押しかけてくる。
「カネ返せ、コラッ!」
「返せないんなら、土地出せ!
妻出せ! 子供出せ!」
「殺すぞ!
ボケッ!」
当時の「殺すぞ」は脅しではなく、本当にブスリだからタチが悪い。
貧窮した御家人たちは、泰盛のところに押しかけた。
「入道様(泰盛のこと。多くの御家人は時宗死亡時に出家している)。高利貸しとそれを操っている御内人を何とかしてください」
「私は全財産持っていかれました〜」
「妻や子供が毎日泣いております〜」
泰盛は怒りに燃えて立ち上がった。
「なんて憎ったらしいヤツラだ! 高利貸しや御内人は、御家人が命をかけて戦って手に入れた土地を、算盤(そろばん)をちょちょっといじっただけで奪っていきやがる!こんなひどい話が許されるものか!」
「そうですよ。なんとかしてくださいよ〜」
「御家人の星・入道様だけが頼りなんです〜」
「高利貸しも御内人も、痛い目にあわせてやってください〜」
「わかった。なんとかしてやろう」
泰盛は考えた。そして、あることを思い付いた。