3.サルには十倍返し

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「半沢直樹」と汚染水漏れ問題
1.やられたらやり返す
2.泥棒とオオカミに倍返し
3.サルには十倍返し

 逃げ切ったオオカミは、ダチのサルに「ふるやのもり」の恐怖を語った。
『「ふるやのもり」は怖ぇぇ。あんなに怖い思いをしたのは初めてだ。もう二度とあんなのはゴメンだ』
 サルは聞いた。
『ふーん。で、その怪物はどんな姿かたちをしてました?」
『さあ〜。逃げるのに必死でよく覚えてないんだ』
 賢いサルは「ふるやのもり」の正体を見抜いた。
『オオカミさん。それは人間ですよ』
『人間だって?』
『そうですよ。あなたをびっくりさせようとして、人間がハッタリをかましただけのことです』
『そうだったのか』
『で、その人間はどうなりました?』
『どうなったって、振り落した時に洞穴の底に落ちて行ったぞ』
『その洞穴に見に行きましょう』
『嫌なこった!』
『「ふるやのもり」の正体、見たくないんですか?』
『見たくねえな。怖いから』
 嫌がるオオカミをサルはバカにした。
『あなたは動物の中で一番強いんじゃなかったんですか?』
『……』
『見損ないました。あなたは弱虫です。最低の動物です。「ふるやのもり」の本当の正体も確かめることもできない、クズでゲスでブタ野郎です』
『何だと!?』
『そうじゃないですか、弱虫ヤロー!』
 オオカミは怒った。
『オレは弱虫なんかじゃねぇー!よしっ、そんなに言われちゃあ仕方ねえ!洞穴に案内してやる!』
『それでいいんですよ〜』

 オオカミは「ふるやのもり」が落ちた洞穴にサルを案内した。
『ここだ。ここに落ちた』
『じゃあ、中をのぞいてみてください』
『のぞくのはおまえだ』
『弱虫ですね』
『弱虫はお互い様だ』
 オオカミは開き直った。
『私は弱虫じゃありませんから』
 強がったサルが中をのぞいた。
 暗くて何も見えなかった。
『もういないんですかね?』
『まだいるはずだ。すぐに抜け出せるような洞穴じゃないだろう』
 そこでサルは尻尾を穴の中にたらした。
『私は弱虫じゃありませんから、こんなことだってできますよっ』
 この頃のサルはまだ尻尾が長かった。
 するするする〜。
 そのため尻尾の先を穴の奥まで垂らし入れることができた。

 なでなで。
 気を失っていた泥棒が、サルの尻尾になでられて目覚めた。
(おお、そういえば、「ふるやのもり」に振り落されて穴に落ちたんだった)
 泥棒は今の状況を思い出した。
 そこへサルの尻尾が垂れ下がってきたのである。
 泥棒は喜んだ。
(おお!サルが穴から助けてくれるっていうのか!)
 むんず!
 泥棒はサルの尻尾につかまった。
『え?』
 サルは戸惑った。
 オオカミがいぶかしがった。
『どうした?』
『何かに尻尾をつかまれました』
『何かって、ま、まさか……』
 オオカミは青ざめた。
 次の瞬間、
『「ふるやのもり」に違いねえー!怖ぇぇー!』
 サルを置き去りにして一目散に逃げて行った。

『ちょっと!待ってよっ!』
 サルも逃げようとしたが、泥棒に尻尾をつかまれたままでは逃げられない。
 バタバタし始めたサルに、
「何だ、コイツ、助けるのをやめて逃げるってか?」
 感づいた泥棒は、逃がすまいと尻尾を引っ張った。
 サルは錯乱した。もがいた。あばれた。何とかして逃げようとした。
『痛いよー!こわいよー!助けてよー!』
「逃がすものかー!」
 泥棒も必死で引っ張り返した。
『何を、クッソー!負けないぞー!』
 サルは顔を真っ赤にして渾身
(こうしん)の力で引っ張った。
 ひきびきびき〜、ブチッ!
 妙な音とともに、サルは一気に身が軽くなった。
『わーい、逃げられたぞー!』

 どすん!
 泥棒は再び穴の底に落ちてしまった。
 泥棒は手を放したわけではなかった。
 手にはちぎれたサルの尻尾が握りしめられていたのである。
「なんてこった。トカゲみたいに逃げやがった」
 それ以来、サルの顔は真っ赤のままで、尻尾は短くなってしまったという。

 しばらくして、またまた雨の夜がやって来た。
 ザアザア。しとしと。ぴっちゃんちゃん。
 おばあさんが聞いた。
「こんな夜はまたアレが来ますかね?」
 おじいさんが雨漏りの下に受け皿を用意しながら答えた。
「『古屋の漏り』なら、もう来てるよ」
 ぴっちゃん、ぴっちゃん、ぴっちゃんちゃん。
「こわいこわい〜」

[2013年8月末日執筆]
参考文献はコチラ

※ 物語の内容には異説が多数あります。
※ 物語の舞台も、岡山県や鳥取県や徳島県などがあります。
※ 家にいた動物もウマではなくて、ウシだったともいわれています。
※ 家に忍び込んだ動物も、オオカミではなくてトラやクマだともいわれています。
※ 尻尾がちぎれたのはサルではなくウサギだともいわれています。

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