1.提 案 | ||||||||||||||
ホーム>バックナンバー2023>令和五年3月号(通算257号)仲直味 三角関係をぶっ壊す1.提案
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あれからスセリビメはずっと機嫌が悪かった(「二股味」参照)。
オオクニヌシが、
「なあ」
と、しゃべりかけても、
「ヤガミヒメと話せば〜」
と、つれなくされるようになった。
「このごはん、君が作ったの? おいしいねっ」
と、ほめても、
「ヤガミヒメが作ったのより〜?」
と、聞かれるようになった。
気まずいので、
「ちょっくら出かけてくるわ」
と、外出しようとすると、
「あ、ヤガミヒメの所に行くのね〜」
と、疑われるようになった。
「うるさいなー! ヤガミヒメ、ヤガミヒメって!」
「あんたが不倫するから悪いんでしょうがー!」
「不倫じゃないって! わしはあっちと先に結婚してたんだよ!」
「ふーん、じゃああたしとの関係が不倫なのね?」
「不倫じゃないって! そんな言葉はこんな大昔にはないって! わしが好きなのは君だけなんだ!」
「じゃあ、ヤガミヒメはなに?」
「あいつとは離婚したんだ!」
「ウソばっかり! 離婚した後も逢ってるでしょ! そもそもこんな大昔に離婚なんて言葉もありませんよぉー!」
オオクニヌシは困った。
「はあ」
邸宅の近くの池でため息をついていると、靴下を履いていない優しそうな男がやってきた(ていうか当時は誰も靴下を履いていないが……)。
「どうかされたのですか?」
この人の名前は『古事記』にはないので、イシダジュンイチノミコト(石田純一命)とでもしておこう。
「三角関係で困っている」
イシダジュンイチは笑った。
「何だ、そんなことですか。それなら簡単な解決策がありますよ」
イシダジュンイチは落ちていた木の枝で地面に三角形を描いた。
そして、枝で三つの角を指して説明した。
「ほら、こことこことここ、尖ってるでしょ?」
「うん」
「三角形だから尖っているんですよ」
「だよな」
イシダジュンイチは三角形の隣に円を描いた。
「ほら、これなら角が立たない。すべて丸く収まる」
「当たり前だ。円に角があるはずがない」
イシダジュンイチは笑った。
「あなたはこれが円に見えるんですか?」
「円だよな?」
「そう見えますか?」
「そう見えるが」
「実はこれ、円ではないんですよ」
「え?」
「十九角形なんですよ」
「全然、角があるように見えないが」
「そうなんですよ。十九角形ともなると、角がなめらかになって円に見えちゃうんですよ」
「はあ」
「人間関係も同じです。二股、つまり三角関係だから角が立つんですよ。十八股ぐらいになれば、みんな丸く楽しく仲良くなれますよっ」
「!」
「あなた、女好きなんでしょ?」
「うん!」
「女遊びがやめられないんでしょ?」
「うんうん!!」
「オオクニヌシだから、権力も財力もあるんでしょ?」
「うんうんうん!!!」
「あなたさまはやりたい放題できるんです! ありのままにオンナを増やしなさいませ!」
「ひゃっほー!」
オオクニヌシは喜んだ。悟った。達観した。
「そーだよね! なるほど! オンナを増やせば角が立たなくなるのか! 増やせば増やすほど、限りなく丸くなるのか!
へっへっへ! こいつはおもしれー! わしはやるぞ! 尖った角を丸くするため、やりまくってやるぜー!!」