3.交換条件

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南蛮の没落
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3.交換条件

 高い買い物をした種子島時尭は、元を取るために職人たちに鉄砲のコピーを作らせた。
 当時はまだ鉄砲鍛冶
(かじ)なんていないので、刀鍛冶に作らせたのである。
 担当したのは八板清定
(やいたきよさだ。金兵衛)らである。
 清定は、元は美濃
(せき。岐阜県関市)の刀工であったが、おそらく天文法華の乱で本州を追われ、法華宗公認の地であった種子島に家族で渡ってきたのであろう。
 一方、火薬の方は笹川小四郎
(ささがわこしろう)なる者に作らせたという。

 まず、清定は鉄砲を分解してみた。
「存外、簡単な構造のものだな」
 最初はそう思ったのであるが、作らせて撃たせてみると、弾が飛ばず、手元で暴発するなどしてしまうのである。
「何かコツがあるはずだ」

 どうしても分からなかった清定は、翌天文十三年(1544)に再び来航した戎克に鉄砲鍛冶の南蛮人が乗っていることを知り、教えを乞うた。
「どうすれば弾が飛ぶようになるんですか?」
「簡単ダヨー」
 南蛮人鉄砲鍛冶は優しかった。快諾し、清定の家まで教えに来てくれることになった。
 しかし、
「どーぞ」
 と、清定の娘・十七歳の若狭にお茶を出された南蛮人は急に態度が変わった。
 実はこの南蛮人は、エロ南蛮人だったのである。
「ヤッパリ、秘伝ハ教エナーイ」
 清定は訳が分からなかった。
「さっきは教えてくれるって言ったじゃないですか〜」
「私ノ言ウコト聞イテクレタラ教エテヤッテモイーヨ」
「言うこととは?」
「コノ娘ヲ、クレッ」
「!」
「クレナイナラ、秘伝ハ他ノ職人ニバラシチャウゾ〜」
「!!」
 清定は追い詰められた。
「ううう……」
 かわいい娘をエロ南蛮人にはやりたくなかったが、他の職人に先を越されるのはもっと嫌であった。
 仕方なく、清定は若狭をくれてやることにした。
 エロ南蛮人が教えた秘伝とは、銃身の底をネジで留めるという、当時の日本にはなかった技術であった。

 こうして清定は娘の操を犠牲にして鉄砲を完成させることができた。
 後にこの武器が日本の戦争史を一変させたことは言うまでもない
(「銃器味」ほか参照)

[2012年6月末日執筆]
参考文献はコチラ

※ 若狭が島を去る前に、彼女の偽りの葬式が行われたとも伝えられています。
※ 偽りの葬式は、エロ南蛮人に若狭をあきらめさせるために清定が策したとも伝えられています。
※ 若狭は島を出た後、一年後に帰ってきて、間もなく病死したとも伝えられています。
※ エロ南蛮人の正体は、フランシスコ・ゼイモトかメンデス・ピントーだった可能性があります。
※ エロかったのは実は若狭の方で、色目を使って秘伝を聞き出したとも考えられます。
※ エロかったのは若狭と南蛮人の両方で、いわゆる恋仲だったとも考えられます。

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