ホーム>バックナンバー2018>2.阿野実為(あのさねため)×楠木正勝(くすのきまさかつ)
「よう、久しぶりだな」
「あ、誰かと思えば阿野さま」
「シッ! 声が高い。お忍びだ。もっと近くに」
「はいはいはい」
「近すぎだ! 口が臭い! 顔は向こうに向け!」
「はい」
ぷう!
「バカ! ケツの穴をこっちに向けて屁(へ)をするんじゃない!」
「だって顔をそむければ、自然とケツの穴はそちら向きに」
「屁理屈を申すな! 屁をしたい時は『屁をこきたいんですけど』と、断りを入れろ!」
「おっぱい触っていい?」
「人が話している時に通行人に下品なナンパをすんな!坊主じゃないんか、おまえ!ほら見ろ!お嬢さん、一目散に逃げちまったじゃないか!」
「でも、どこかの偉い人もそんなようなこと言ってましたよ〜」
「どこの偉い人だボケ! コラッ! 言ってるそばから次の獲物を物色するな!目が散ってるぞ、生臭坊主め!」
「注文が多いですな〜」
「普通だ普通!」
「物色じゃなくて警戒ですよ〜。エロ坊主のふりをして間者が近づかないようにしているだけじゃないですか〜」
「あ――、そういうことだったのか。北か南、どちらの間者だ?」
「どっちもまずいんでしょ〜?」
「まあな。――で、おぬしはアレから何をしていた?」
「アレとは?」
「一月に城(千早城)が落ちてからだ。どこに住んでいるのだ?」
「定住せずに放浪しております。このとおり、僧の格好をして尺八を吹いていれば、日銭には困りません。僧名を虚無(こむ)といいます」
「京にも行ったのか?」
「ええ、何度も」
「北の人脈に知り合いでもできたか?」
「まあ、何人か」
「有名人もいるのか?」
「いますよ。北というか、元南ですけど」
「誰だ?」
「大内介」
「なんと! 大内義弘殿か!」
「そうです。先の大乱(明徳の乱)で大活躍して和泉・紀伊を加増された大富豪です」
「ほう。――で、介殿とは、どこで知り合った?」
「向こうから話しかけてきました」
「大富豪が汚い坊主にか?」
「普通は話しかけません。私の正体を知っていたから話しかけてきたのです」
「何か用を頼まれたとか?」
「ええ、北の将軍さまから南への使いを頼まれました」
「ほほっ」
「何かおかしいのですか?」
「実は私も南の帝から北への使いを頼まれた」
「ということは、『魚心あれば水心』ということでしょうか?」
「我が主は戦争を好まない。趣味を続けたいため、南北統一を目指す交渉をしたい、とのこと」
「やはりそうでしたか。北も同じです。統一の交渉をしたいと」
「交渉の窓口は、私と吉田宗房(よしだむねふさ)が担当する」
「ですか。こちらは吉田兼煕(かねひろ)にお知らせください」