3.永すぎた春 | ||||||||||||||
ホーム>バックナンバー2015>3.永すぎた春
|
「近衛はんが美少年を漁っているそうな」
家平の性癖は家女房にも知れた。
家女房は夫に問いただしてみた。
「嫌なうわさ聞いたけど、本当なの?」
「本当だよ」
家平は認めると、何か言おうとした家女房に逆ギレした。
「元はといえば、お前のせいじゃないか」
「はあ?」
「お前による女色厳禁の反動で、マロはオトコなしではいられなくなっちまったんだよー!」
「!」
「マロは決めたんだ!もうマロはオトコしかいらない!お前が望むように、オンナなんて絶対に触らない!へん!女なんてキャーキャーうるさいだけじゃねえか!男は黙って男遊びだ!ひゃっほー!」
家平はわめきながら邸を飛び出していった。
家女房はさめざめと泣いた。
ぶちまけてしまった家平は、俄然(がぜん)強気になった。
昼間っから堂々と美少年を連れ回すようになった。
家平は忠朝(ただとも)という少年と七、八年関係していた。
「今夜は何して遊ぶの?」
「おかま」
「ほかには?」
「にやけ」
「ほかは?」
「きくざ」
「ほかほか〜」
「しんちゅうみがく」
「いやんいやん」
「ごぼうの口切り」
「全部同じじゃ〜ん」
忠朝が大人になると、成定(なりさだ)という少年に乗り換えた。
「君、出世したいんだってね?」
「うん」
「君のような貧乏人が手っ取り早く出世する方法を教えてやろう」
「いい方法があるんですか?」
「ああ。『まくら』だよ」
「まくら?」
「そう。偉い人と仲良くなることだよ。それもただの偉い人じゃダメだ。左大臣や関白といった超一流の権力者と行き着くところまで付き合ってネンゴロになることだ」
家平はに延慶二年(1309)に左大臣に、正和二年(1313)に関白・氏長者(うじのちょうじゃ)になった。
彼に出世欲があるわけではなかった。
「マロって左大臣なんだよ」
「マロって関白なんだよ」
「マロってすごいお金持ちなんだよ」
家平にとって出世とは、オトコを落とすための武器の一つに過ぎなかった。
家平は壮年になると、頼基(よりもと)という少年に出会った。
頼基とは、彼が成人した後もずっと関係していた。
彼は家平最後のオトコになった。