4.鍵のかかる部屋

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武藤貴也買春疑惑
1.美徳のよろめき
2.仮面の告白
3.永すぎた春
4.鍵のかかる部屋
5.真夏の死

 正和四年(1315)九月、近衛家平は関白を辞めた。
「息子も公卿になったことですし」
 近衛経忠は、十三歳で従三位になり、十五歳で権中納言
(ごんちゅうなごん)に、十六歳で権大納言(ごんだいなごん)に昇進していた。

 正中元年(1324)、家平は出家して政界を完全引退した。
「病気のため政務ができなくなりました。あとは息子にお任せを〜」

 家平の後任の関白・鷹司冬平(たかつかさふゆひら)が心配して見舞いに来た。
 冬平は鷹司兼平
(かねひら)の孫で、家平にとっては母方のいとこである(「鷹司家系図」参照)
「御主人の病状はどうですか?」
 冬平に聞かれた家女房は、狂ったように笑った。
「病気?オホホホホホッ!おかしい!ピンピンしているわよ!私の前ではグッタリしているのに、頼基とかいう男の前ではビンビンしているわよっ!仮病ですよ、仮病!まあ、病気といえば病気ですけどね。そうですよ!あの人は悪い病気なんですよっ!」
 その時、冬平は、床がモワワワ〜ンと揺れているのを感じた。
「あ、地震ですね。気をつけないと」
 家女房はさらに声を上げて笑った。
「アーヒッヒ!その必要はありませんわ!だって、地震なんかじゃありませんもの!あの二人が揺らしているだけなんですもの!昼間っから!オッサン二人で!時には激しく、時には穏やかに!夫が仕事を辞めたのは、誰にも気兼ねなく、誰にも邪魔されず、頼基との情事に熱中するため!あいつらは朝昼晩々、房にこもって鍵をかけて、じっくりねっとりお楽しみなのよ!バッカみたい!もういやっ!こんな生活っっ!」

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