2.ネコおんねん

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加藤一二三の伝説
1.女おんねん
2.ネコおんねん

 それからというもの、間男は毎晩人妻に逢い行くようになった。
 そのうち亭主が感づいた。
「おい」
「なあに?」
「おまえ、最近、変わったな」
「どんなふうに?」
「ずいぶん幸せそうじゃないか」
「なーに、言ってんのよ〜。あなたがいるからよ〜」
「いや、ちがう。前はそんなんじゃなかった」
「……」
「何があった?」
「……」
「いるのか?オトコが?」
「いっ、いないよ〜。自分が浮気してると、人も浮気しているように見えるんだよ〜」
 分が悪くなった亭主は何も言わなくなった。
 ただ、その日は日が暮れてもオンナのところに出かけようとはしなかった。

 夜になり、
「こんばんは〜。怪しい者ですけど〜」
 知らずに間男がやって来た。
 人妻は、あわてて表へ出て行って追い払った。
「シッ!シッ!押し売りならお断りだよっ!」
 間男は奥に亭主がいるのを見て驚き、
「お呼びじゃない」
 とっとと逃亡した。

 次の夜も次の次の夜も、亭主はウチにいた。
(なんでよ〜?)
 そのため人妻は間男と逢えなかった。

 その翌日、亭主の留守を見計らって人妻が例の飲み屋に行ってみると、間男が飲んでいた。
「お!」
 間男は人妻に気づくと、彼女を近所のお社の裏に引っぱっていって抱きしめた。
「逢いたかった!」
「あたしも〜」
「最近、亭主はいつもいるみたいだな」
「どうする〜?気づかれたみたいだよ。ばれたらただじゃすまないよ」
「それでもオレは君に逢いたい」
「あたしもよ」
「大丈夫。亭主のいないときに逢えばいいだけだ」
「どんなふうに?」
「君は亭主が出かけそうな夜には梯子
(はしご)を外に出しておいてくれ。オレはそれを上って屋根で待機し、亭主が出かけたら二階から中に入る」
「でも、どうやって亭主が出かけたことを知らせればいいの?」
「合言葉を決めておこう。亭主が出かけたら、君は屋根に向かってこう言うんだ。『屋根の上にいるのはネコかしら?』すると、オレは『にゃあ!』と鳴く。それを合図に君は二階の窓を開けてくれ」
「わかったわ」

 二人は約束した後、それぞれのウチへ帰っていった。
 その二人を激怒の視線で物陰から見つめる男があった。
「あいつら〜」
 そうである。人妻の後をつけて祠
(ほこら)の裏に隠れてすべてを盗み聞きしていた亭主であった。
「何が『ネコかしら?』だ!何が『にゃあ!』だ!クッソー!こういうことだったのか!許さんぞー!」

 その夜、亭主は人妻に告げた。
「今晩、出かける」
「あっそう」
 人妻は喜び、間男との約束どおりこっそり梯子を掛けにいった。

 間男は梯子を見つけて喜んだ。
「お!さっそく今夜出てるじゃねえか」
 亭主が出かけ支度をしていると、屋根の上で何やらゴソゴソ物音がした。
 間男が屋根に上り、臨戦態勢で待機しているのである。
「なんだ?」
 亭主がわざとらしく首をかしげた。間男に聞こえるように、大きな声で言った。
「屋根の上を人が歩いているような」
 人妻は必死で否定した。
「違いますよっ。人なんていませんよっ。ネコですっ」
「ネコなら鳴くだろう!」
 亭主は屋根に向かってわめいた。
「ネコなら鳴いてみやがれっ!鳴けやコラーッ!さあー!」
 間男はびびった。追い詰められた。進むことも引くこともできず、もう本当にネコの鳴きまねをしてごまかすしかなかった。
 間男は鳴いた。
 でも、動揺のあまり、鳴き方を間違えた。
「ねこぉ〜〜〜!」

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