2.百済河成の逸話 | ||||||||||||||
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たとえばこんな伝説がある。『今昔物語集』に伝わるものである。
あるとき、河成の家で働いていた少年が、賃金や待遇に不満でもあったのか、逃げ出してしまったことがあった。
河成は近所を捜したが、見つからなかった。
「いったいどこへ行ってしまったんだ」
河成は知り合いの貴族の家を訪ねると、その家の使用人に頼んだ。
「家で働いていた少年が逃げ出してしまった。私は今から仕事に行かなければならないので、君、ちょっと捜してくれないか?」
使用人が困ったように言った。
「そうですね。いちおう捜してみますが、私はその少年を見たことがないので、難しいかと思いますが……」
「それもそうだな」
河成は納得し、少年の似顔絵を書いて渡した。
「この顔にそっくりの少年を捜してきてくれればいいんだ。そうだな。市には大勢の人が来る。市へ行って尋ねれば、だれか一人は少年の居所を知っている者がいるだろう」
使用人はさっそくその似顔絵を持って市へ行った。
「こんな少年知りませんか?」
市の人々に聞いて回ったところ、
「そういえば、この絵にそっくりの少年が時々うちに買い物に来るよ」
との証言を得た。
使用人がその店の前で待っていると、本当に絵にそっくりの少年がやって来た。
使用人が問いただしてみると、やはり捜していた少年だった。
こうして河成は見事に少年を見つけることができたのである。
しかしこれぐらいのことは、ちょっと似顔絵のうまい人なら、できないことはないであろう。こんなもの、まだ「伝説」に到達してはいない。「伝説」まではいかない「逸話」である。