4.百済河成の失態 | ||||||||||||||
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しばらくして、飛騨工は河成を自宅に誘った。
「ちょっと、おもしろいものを造ってみたんですけど、おいで願いませんか?」
この間、会ったときと比べたら、まるでトラがネコに変わってしまったようである。
河成は気味悪がったが、
「ぜひぜひ」
余りにしつこく勧めるので、仕方なく行くことにした。
「おもしろいものって、いったい何を造ったのかね?」
河成がおそるおそる尋ねてみると、飛騨工がやけにニタニタしながら言った。
「お堂ですよ。それで、あなたに堂内に絵を描いていただきたいんですよ」
河成は安心した。
「そんなことなら、お安い御用だが―」
なるほど、飛騨工の邸宅の庭には、真新しいお堂が一軒、建てられていた。
一間四方の大きさで、四方に戸がついている。
それにしてもさすがは天下の名大工、ついぞそこらで見かけないしゃれたお堂である。
「ほほう。変わったお堂ですなぁ」
「中も変わってますよ。さあさあ、どうぞ中を御覧ください」
「どこから入ろうか」
「開いている戸からお入りください」
戸は四方とも開け放たれていた。どこからでも入れるということなのだろう。
とりあえず、南から中へ入ろうとした河成だったが、入ろうとした瞬間、戸がばたんと閉まってしまった。
「痛っ!」
河成は鼻をしたたかに打ち付けて飛びのいた。
飛騨工は笑った。
河成もつられて笑った。
「ここは入り口じゃなかったのか。先に言ってくれればよかったのに、お人が悪い」
それにしてもおかしい。確かに開いていたから入ろうとしたのに、足を踏み入れた瞬間に戸が閉まるとはどうしたことか?
河成は気を取り直して、北の戸から入ることにした。
が、入ろうとした瞬間、またもや戸が閉まり、顔面を強打した。
「あたっ!」
河成はわけが分からない。
「くそっ!」
今度はすばやく東から飛び入ろうとしたが、待ち構えていたかのように閉まった戸に激突してしまった。
その後も河成は、何度かお堂入りを試みたが、結果は同じことだった。河成が入ろうとするところするところ戸が閉まり、中へ入ることができないのである。飛騨工は自動扉の逆の仕掛けをこしらえたのだろうか?
「どうにも中に入れないではないか」
あきらめて鼻血ダラダラでコブまでこしらえて下りてきた河成を見て、飛騨工が大笑いした。腹を抱えて笑い転げた。
「ひい! ひい! なんてザマだ!」
河成は初めて、自分がはめられたことを知った。
「この私をバカにしたのかっ!」
怒ってみても、飛騨工の笑いは止まらない。河成は悔しがって家に帰った。