2.家庭内暴力 | ||||||||||||||
ホーム>バックナンバー2021>令和三年8月号(通算238号)二刀味 二刀流考案2.家庭内暴力
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ちゃっ!ちゃっ!ちゃっ!
新免無二が楊枝(ようじ)を削っていた。
ちゃっ!ちゃっ!ちゃっ!
黙々と何本も何本も削っていた。
ちゃっ!ちゃっ!ちゃっ!
たくさん作って売るつもりなのである。
ちゃっ!ちゃっ!ちゃっ!
無職になったため、生活の足しにするつもりなのである。
ちゃっ!ちゃっ!ちゃっ!
無職になる前は、竹山城主・新免家で剣術指南役をしていた。
ちゃっ!ちゃっ!ちゃっ!
が、家老・本位田外記之助(ほんいでんげきのすけ)とケンカして斬り殺してしまったため、殿様からクビにされてしまった。
『俺は殿様の命令で本位田を暗殺したのだ』
無二は言いふらしたが、周囲の者は誰も信じなかった。
『主命ならクビにされるはずはない』
『そもそもホラ吹きの無二の言うことは信じられない』
『どうせ嫁に逃げられたのも、ホラ吹きのせいなんだろう』
『いや、それは家庭内暴力が原因だと聞いたが』
『嫁が出ていった後は、息子にも暴力を奮っているそうな』
『ウソにしても暴力にしてもサイテーな男だぜ』
『どうせ昔、足利将軍家剣術指南役・吉岡憲法(よしおかけんぽう。吉岡拳法)と試合して勝ったことがあるっていうのもウソなんだろう』
『それほどの猛者なら将軍家から召し抱えられるはずだからな』
無二は嫌なうわさを思い出して不機嫌になった。
「どいつもこいつもクソッタレが!」
ちゃっ!ちゃちゃちゃ!ちゃっちゃちゃちゃ!
「親父ぃ」
新免弁之助が話しかけた。
「何だ?」
「そんなにたくさん楊枝を削ってどうするんだよ?」
「売るに決まっているじゃないか」
「誰が?」
「俺が」
「その人相が悪すぎる顔でか?」
無二の右手が止まった。
荒い鼻息も止まった。
(来るぞ!)
弁之助は身構えた。
キラッ! ぴやっ!
無二の左手から切っ先輝く小刀が飛んできた。
ひょい!
弁之助はのけぞってこれを避けた。
どす!
小刀は背後の柱に突き刺さった。
「おのれー!」
無二は青筋を立てた。
「死ねや、クソガキーっ!!」
しゃか!しゃか!しゃか!
間髪入れずに手裏剣を連発してきた。
「よっ、よっ、よっと」
グサ! グサ!! グササ!!!
手裏剣が背後の壁に刺さる音である。
弁之助は難なく全部避けていたのである。
これくらいの家庭内暴力は、この家では日常茶飯事であった。
「いい根性だ! 刀を取れっ!!」
無二はギラリと真剣を抜くと、メラメラと仁王立った。
「嫌だね」
弁之助は冷めていた。
ぷい!
そのまま家を飛び出してしまった。
「こんな家にいたら、生命がいくらあっても足りねーぜ」