1.伴 善男 | ||||||||||||||
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清和天皇 PROFILE | |
【生没年】 | 850-880 |
【別 名】 | 惟仁親王・水尾帝・素真 |
【出 身】 | 平安京一条第(京都市上京区) |
【本 拠】 | 一条第(上京区)→内裏(上京区) →清和院(上京区)→円覚寺(京都市東山区) |
【職 業】 | 皇族 |
【役 職】 | 皇太子(850-858) →天皇(858-876)→上皇(876-880) |
【 父 】 | 文徳天皇(仁明天皇皇子) |
【 母 】 | 藤原明子(藤原良房女) |
【摂 政】 | 藤原良房 |
【兄 弟】 | 惟喬親王・惟条親王・惟彦親王・惟恒親王・晏子内親王 ・慧子内親王・述子内親王・珍子内親王・恬子内親王 ・儀子内親王・礼子内親王・濃子内親王・勝子内親王 ・揚子内親王・源能有・源毎有・源時有・源本有 ・源定有・源載有・源憑子・源謙子・源列子・源済子 ・源奥子・源行有・源富有・源富子・源淵子・源脩子 |
【 妻 】 | 藤原高子・藤原佳珠子・藤原多美子・嘉子女王 ・兼子女王・忠子女王・隆子女王・平寛子・源済子 ・源厳子・藤原頼子・源喧子・源貞子・源宜子 ・藤原良近女・在原行平女・藤原諸勝女・藤原真宗女 ・佐伯子房女・橘休蔭女・藤原仲統女・棟貞王女 ・藤原諸葛女・賀茂峰雄女・大野鷹取女ら |
【 子 】 | 貞明親王(陽成天皇)・貞固親王・貞元親王・貞保親王 ・貞平親王・貞純親王・貞辰親王・貞数親王・貞真親王 ・貞頼親王・孟子内親王・包子内親王・敦子内親王 ・識子内親王・源長猷・源長淵・源長鑑・源載子・源長頼 |
【側 近】 | 在原行平・藤原山蔭ら |
【墓 地】 | 水尾山陵(京都市右京区)・火葬塚(京都市左京区) |
【霊 地】 | 清和天皇社(右京区) |
朕(ちん)は何も知らなかった。
何も知らずに一歳で皇太子になり、九歳で天皇になり、二十八歳で譲位し、三十一歳の若さであの世へ旅立つはずであった。
しかし、朕は知ってしまった……。
あの男によって、すべてを知らされてしまった……。
いや。あれはすべてではあるまい。
あれはあの男が知っていた一部であって、他のすべてはいまだ闇の中にある。
「帝は、帝の『おじいさま』をお好きですか?」
あるとき、あの男は朕に聞いてきた。
朕の『おじいさま』とは藤原良房(「藤原北家系図」参照)。
貞観七年(865)当時には、人臣の最高位・太政大臣を務めていた政界首班である。
朕は迷いなく答えた。
「好きだが」
「なぜ?」
「なぜって、ジイジは優しいから」
あの男は笑った。
「帝の『おじいさま』は帝には優しいですが、他の人からすれば、必ずしもそうとは限りません」
「ジイジは朕以外の人には冷たいのか?」
「人によっては」
「ヨシオにも冷たいのか?」
大納言・伴善男(「告発味」「伴氏系図」参照)――。
それがあの男の官職と名前であった。
「優しいですよ」
「なあんだ」
「今のところは」
「将来、変わることもあるのか?」
「将来なんて分かりません。人の感情は色々なことが要因が変わってしまうものです。帝だってそうでしょう?今まで好きだったものが嫌いになったり、嫌いだったものが好きになったりすることはございませんか?」
「うーん。そういえば昔はオナゴというものはうるさくて嫌いだったが、最近では何かその、気になって気になって仕方がない」
時に朕は妄想まみれの年頃十六歳。
「アハッ!そのことを『おじいさま』が聞いたら大喜びですよ」
「どうして?」
「帝を女狂いにしておけば、『おじいさま』は思うがままに権力を振るうことができます」
「何てことを言うんだ!ジイジはそんなことをする人じゃない!」
「申し訳ございません。人の感情は移ろいやすいという話でした」
「もう!」
「確かに『おじいさま』は今は帝をかわいがっていますが、将来、帝から別の人に愛情の対象が変わらないとも限りません」
「誰に?」
「近い将来御誕生予定の帝のお子さま」
「なるほど」
「たとえば帝が『おじいさま』の養女と結婚されてお子さまがお生まれになれば、そのお子さまは『おじいさま』にとってひ孫にして孫というわけです」
「そうだな」
「それに対して帝は『おじいさま』にとってタダの孫です」
「……」
「さあ。『おじいさま』から見たら、だんだんオッサン化していく帝と、きゃぴきゃぴ赤ちゃんな帝のお子さまと、どっちがかわいいでしょうか?」
「ふっ、知れたことよ」
「五条后(ごじょうのきさき。藤原順子。朕のおば。良房の妹)』に聞きました。極秘の話ですが、『おじいさま』はすでに帝の『お嫁さん』を用意しています」
「だだっ、誰?」
「おっそるべき美女ですよ」
「ぶえっ!んで、だれだれ〜?」
「気になりますう〜?」
「なるに決まってるじゃないか!朕の近い将来のヨメなんだろ!?」
「ええ。そうですよ。――あ、ちょっと用事を思い出しました。大納言は忙しいんです〜。続きはまたの機会に」
「何だよそれ!」