2.早世!藤原時平!! | ||||||||||||||
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「藤原菅根卿(きょう)が雷に打たれて死んだそうな」
「やっぱり天神になった菅公のたたりに違いない!」
「そや!前に藤原氏の氏寺・興福寺が燃えたのもたたりのせいや!」
「くわばらくわばら!」
都の人々はますますおびえた。
魔の手は藤原時平にも訪れた。
延喜九年(909)三月に、にわかに発病して寝付いてしまった。
時平は起き上がろうとした。
「私にはまだやることがある!延喜式を完成させなければならないし、荘園整理も進めなければならないし、天皇の外戚にもならなければならないし、摂政・関白にもならなければならない!」
時平の祖父・藤原良房は摂政になり、父・藤原基経は関白になった(「藤原北家系図」参照)。
なのに自分の代で摂関政治を途切れさせたくはなかった。
でも、力が入らなかった。
「浄蔵(じょうぞう)を呼べ」
浄蔵も高名な天台宗僧である。
大儒・三善清行の子で(「三善氏系図」参照)、加持祈祷の名人であり、後には尊意らとともに平将門(「桓武平氏系図」参照)の調伏も行っている。
「お呼びでしょうか?」
時平がフウフウ頼んだ。
「私に取り憑(つ)いている悪霊を取り払ってほしい」
「承知いたしました」
浄蔵は手で印を結び、真言(しんごん)を唱え、一心に祈り始めた。
「うおぉぉ〜」
すると、時平の様子がおかしくなった。
顔が赤らみ、アメーバのようにモゾモゾ変形してきた。
「悪霊め、正体を現したな!病魔退散!」
「うぐぐぐぐ〜」
と、時平の両耳から一匹ずつヘビが顔を出して口をきいた。
(邪魔ヲスルナ!我ハ不倶戴天(フグタイテン)ノ敵(カタキ)ヲ滅ッセントシテイルノダ!去ラネバ貴様ラ三善一族モ皆殺シニスルゾッ!)
「ああ、生前の菅公とは似ても似つかぬ変わりよう!敵憎さに鬼に魂を売り飛ばしたか!」
(ホザケーッ!)
「とどめだーっ!」
浄蔵は渾身(こんしん)の気合を込めて金剛杵(こんごうしょ)を振り下ろそうとした。
「やめい!浄蔵!」
金剛杵をつかんで止めたのは清行。
「やめるんだ!それ以上やるとわが一族は皆殺しにされる!」
「止めなさるな父上!あともう一息なのです!」
「お前なんぞに勝てる相手ではない!家を滅ぼしてもよいのか!」
ガララン。
浄蔵は金剛杵を落とした。
清行は浄蔵を連れてそそくさと退室した。
「見捨てるのか!」
時平は叫び、ヘビは喜んだ。
(サスガハ清行、聞キ分ケガヨイ。デハ、エンリョナク」
ぐびり!
「ギャーン!」
時平は死んだ。
時に延喜九年四月四日。享年三十九。