1.藤原良房

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平昌五輪
1.藤原良房
2.藤原良相
3.安倍安仁
4.滋岳川人

摂政太政大臣閣下」
「何だ?」
「どうやら、あの件がばれたようです」
「あの件とは?」
「恒貞
(つねさだ)親王廃太子の件――、いわゆる、承和の変です」
「……」
「匿名の投書がありました。『国史には事実を記すべきだ』と」
 当時朝廷では、六国史の四番目『続日本後紀』の編修が進められていた。
 天長十年(833)から嘉祥三年(850)に至る仁明天皇の治世を収めた史書である。
 斉衡二年(855)二月、文徳天皇は、右大臣・藤原良房、参議・伴善男
(とものよしお)、刑部大輔・春澄善縄(はるずみのよしただ)、少外記・安野豊道(やすののとよみち)に編修を命令した(「古代管制」参照)
 天安元年(857)に良房が太政大臣になると、豊道が編修員から外され、新たに右大臣・藤原良相
(よしみ)と散位(さんい・さんみ。無役)・県犬養貞守(あがたのいぬかいのさだもり)が加えられた。
「分からぬ」
「と、おっしゃいますと?」
「阿保
(あぼ)親王は闇から闇に葬ったはずだ。いったいどこから秘密が漏れたのか?(「安保味」参照)
「さあ?」
「在原
(ありわら・ありはら)家か?(「在原氏系図」参照)
「亡き親王が家族に秘密を漏らすいとまはなかったと聞いてますが」
「では、善縄か?」
「彼ほど閣下に従順な学者はいますまい」
「豊道か?」
「彼には告発する度胸はないと存じます」
「まさか弟か?」
「良相公は名義だけで編修内容は御存知ないものかと」
「県守か?」
「新入りのため、まだ内容を把握しておりますまい」
「では、誰が漏らした?――まっ、まさか、お前か?」
「めめめっそうもない!なんで私が自分で自分をおとしめようとするでしょうか?」
「それもそうだ」
「えーっと、むしろ部外者ではないでしょうか?編修員の面々に不満のある誰かが我々の誤記を指摘したとも考えられます」
「フッ、面倒なヤツだ」
「そうです。面倒なヤツです」
「ただ、そういう理由であれば、そのうちに正体を現すであろう。編修員に加わりたいだろうからな」
「でしょうね」
「何か動きがあったら知らせよ」
「承知。しかし、申し上げたとして、ソイツをどうなさるおつもりで?」
「……」
「面倒なヤツとはいえ、間違ったことはしていないと存じますが」
「何だと?国史編修は国家事業だ。国にたてつく者が間違ったことをしていないと申すのか?」
「いえ、そういうつもりでは」
「国にたてつく者は極悪人である!おそらくその者は、先帝
(文徳天皇)と同じ運命になるであろう!」
「!」

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