4.滋岳川人

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平昌五輪
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2.藤原良相
3.安倍安仁
4.滋岳川人

「先生」
「あ、参議卿」
「お変わりありませんか?」
「それが、残念なお知らせがあります」
「それって、ま、まさか……」
大納言安倍安仁卿がお亡くなりになりました」
「やはり、呪い殺されたんですか?」
「いいえ」
「では、病気で死んだんですか?」
「表向きはそうなっていますが、他殺です」
「他殺!? どういうことです?」
「刺客に殺されたのです」
「何と!?」
「私が退治できるのは、モノノケであってモノノフではありません。お役に立てずに申し訳ありませんでした」
「いや、こちらこそ謝りたいです。私のもくろみが甘かったんです。まさか摂政が刺客を差し向けてくるとは――」
「それでも、二度までは刺客団の襲撃をかわすことができました。三度目の襲撃でやられたのです」
「そうですか。二度も守ってくれたのですか」
「はい。一度目は先帝の埋葬地を占いに行った帰りに襲われました。その時は安倍卿を連れて田んぼに逃げ、わらの中に隠れさせたのです」
「なるほど。刺客の姿がなくなるまで潜んでいたんですね?」
「そうです。そのわらの中で二度目の襲撃計画を知りました。刺客団が『次の襲撃は大みそかの晩だ』と話し合っていたんです」
「あぶねー!刺客たちの目と鼻の先で隠れていたんですねっ」
「そのため大みそかの夕方に、私と安倍卿は二条大路と西大宮大路の辻で落ち合って年が明けるまで嵯峨寺
(清凉寺or大覚寺)に隠れていました」
「ふうん。寺の僧たちはよく味方してくれましたね」
「僧たちには内緒で御堂の天井裏に忍び込みました。彼らが刺客と通じていないとは言い切れませんからね」
「慎重だったんですね」
「いいえ、まだまだ慎重さが足りませんでした。結局、私が見張ってないスキにやられちまったんですから。安倍卿も草葉の陰で怒っておいででしょう」
「いや、畑違いなのによくやったと感謝していると思いますよ」
「そんなことありません。私は何もできませんでした。今回の件でつくづくと思いました。武力の前には陰陽道は無力です」
「ですか」
陰陽道で人を傷つけるためには激しい修行が必要ですが、刀や弓ならただ手にするだけで誰でも簡単に傷つけることができます」
「まあ、そうですけど」
「これからの貴族は、陰陽師なんてうさん臭いヤカラを雇ってはいけません。そんなカネがあるなら、凶器を持った武士を雇うべきです」
「あんた、自分で自分の首をしめるようなことを言ってない?」
「わしらまじない師の時代は終わった!これからは暴力の時代だ!」
「あかんやろー!」

[2018年2月末日執筆]
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※ 『今昔物語集』では安倍安仁襲撃犯は「地神(つちのかみ)」としていますが、この物語では現実的に刺客としました。

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