温泉伝説2 - 歴史チップス

３．温泉伝説2 ～病人バージョン

ホーム>バックナンバー2004>温泉伝説２．病人バージョン

新年の御挨拶

１．行基の生涯

２．温泉伝説1 ～鳥類バージョン

３．温泉伝説2 ～病人バージョン

　あるとき、行基の行く手にみすぼらしい病人が倒れていた。
「どうされたのじゃ？」
　行基が抱き起こすと、病人は虫の息で頼んだ。
「わし、体中が腫(は)れ物だらけで痛いんじゃ。この近くの温泉に治しに行こうとしたんじゃが、腹が減って動けなくなってしまった」
「そうかそうか。では、この魚の干物を食べられよ」
　病人は嫌がった。
「わし、新しい魚しか、食べられないのじゃ。ほれ、お前。湊へ行って捕ってきてくれないかのう」

　行基は素直に湊へ行って魚を捕ってきてあげた。
「うめえ、うめえ」
　病人はむさぼり食べた。少し元気になった。
「ものはついでじゃが、わしを温泉まで負ぶって行ってくれないかのう」
　行基は病人に案内された温泉に連れて行くと、衣を脱がせて湯に入れてあげた。
「ごくらく、ごくらく～」
　病人は目を細めて喜んだ。湯から上がった彼は、より横柄になった。
「ああ、体中がヒリヒリ痛くてたまらない。ほれ、お前。わしの体中の腫れ物の膿(うみ)を吸い出して楽にしてくれないかのう」

　行基は膿を吸ってやった。病人の体はただれてウジまでわいていて臭かったが、我慢して全身の膿を吸い取ってあげた。
　すると、病人の体がポロボロと崩れ、中から金色に輝く仏が現れた。
「なんということじゃ！」
　行基が驚いていると、仏が微笑んで言った。
「あなたの慈悲深さには本当に感心した。私はこの温泉の行者じゃ。お前はこの温泉を開放して多くの病気の人々を救いなさい」
　仏はそう言うと、どことへもなく去っていった。
　行基は言われたとおり温泉を開放し、多くの病気の人々を救ったという。

[2003年12月末日執筆]
ゆかりの地の地図
参考文献はコチラ

※ 病人バージョンは、有馬(異説)・湯河原温泉などです。
※ 光明皇后にも施薬院を開いたときに病人の全身の膿を吸い出すという似たような逸話がありますが、老人が病人をなめまわすより、美人(と伝えられている)女性が病人をなめまわす話のほうが興味をそそられるので、いつの間にか入れ替わってしまったのでしょう。

　● 行基の建てた主な寺院　

【岩手県】黒石寺・天台寺
【山形県】吉祥院・慈恩寺・称明寺
【栃木県】最勝寺・西明寺・大慈寺・寺山観音寺
【群馬県】善導寺
【茨城県】富谷観音
【埼玉県】安楽寺・法恩寺
【千葉県】石堂寺・千葉寺・那古寺・大福寺・日本寺・松虫寺・万満寺
【東京都】金剛寺・薬王院
【神奈川県】高徳院・高麗寺・神武寺・杉本寺・曹源寺・長谷寺・星谷寺・影向寺・霊山寺
【新潟県】乙宝寺・寛住寺・明静院
【山梨県】大善寺・長谷寺
【長野県】安楽寺・大安楽寺・釈尊寺・津金寺
【富山県】日石寺・法福寺
【石川県】医王寺・伏見寺・薬王院
【福井県】羽賀寺・妙楽寺
【静岡県】秋葉寺・鴨江寺・久能寺・光明寺・尊永寺・泰平寺・摩訶耶寺・願成就院
【愛知県】岩屋寺・財賀寺・普門寺・竜照院
【岐阜県】乙津寺・行基寺・美濃国分寺・飛騨国分寺・護国之寺・真禅院・日竜峰寺
【三重県】継松寺・西蓮寺・慈恩寺・正福寺・太江寺・田宮寺
【滋賀県】大池寺・大田寺・興福寺・金剛輪寺・総持寺・宝厳寺・竜王寺
【京都府】岩屋寺・西芳寺・法輪寺・宝積寺・浄瑠璃寺・岩船寺・蟹満寺・泉橋寺・大智寺・福徳寺・本願寺・養仙寺
【奈良県】勧喜光寺・喜光寺・金峰山寺・九品寺・新薬師寺・菅原寺・霊山寺・レン(王＋連)城寺・竹林寺・長弓寺・宝幢寺・船宿寺
【大阪府】安福寺・家原寺・往生院・久安寺・久修園院・久米田寺・野崎観音・葛井寺？・金剛寺・水間寺・孝恩寺・観音堂・知識寺・獅子窟寺・真如寺・常光寺
【兵庫県】温泉寺・随願寺？・昆陽寺・酒見寺・浄土寺・清水寺・相応峰寺・大乗寺・常隆寺・福海寺・瑠璃寺
【和歌山県】利生護国寺
【岡山県】蓮台寺
【広島県】西国寺・竹林寺
【山口県】国分寺・竜蔵寺
【香川県】国分寺・志度寺・宝生院・弥谷寺
【徳島県】金泉寺・童学寺・立江寺・霊山寺
【愛媛県】円明寺・観自在寺・西山興隆寺・西林寺・浄瑠璃寺・三角寺
【高知県】定福寺・神峰寺・清滝寺・国分寺・大日寺・竹林寺
【福岡県】長谷寺・普門院
【佐賀県】竹崎観世音寺
【長崎県】観音寺

など