1.提 案 | ||||||||||||||
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はーい、緒方塾塾長の福沢諭吉でーす。
十二年ぶりの登場になりますけど、みなさん覚えていますか〜?
そうです。
前回(「飲酒味」参照)は、酒を飲んでヘマしちゃったお話でした。
実は、私の酒での失敗はアレだけじゃありません。
あまりにイロイロありましたんで、禁酒することにしました。
「えーい! 酒はもう一切飲まないぞ! やめたやめた!」
でも、塾生たちは信じません。
「ウソだろ〜、あんなに好きだったのに〜」
「いつまで続くか見ものだな」
「もって三日だろう」
私は怒りました。
「そんなことないぞ!」
私は塾生たちを見返すためにがんばりました。
禁酒を始めて三日、五日、七日と過ぎると、塾生たちの笑顔が消えました。
「おい、まだ飲んでないのかい?」
「なかなかやるじゃないか」
「なーに、いくらなんでももう限界だろ」
「一杯どうだい? 楽になるぜ」
杯を突き付けられても、私は、
ばーん!
と、払いのけて我慢しました。
「飲まないって言ったら飲まないんだぁー!」
十日、十三日、十五日と過ぎると、心配する者が現れました。
高橋順益(たかはしじゅんえき)という親友の塾生です。
「大丈夫か?」
高橋は私に聞きました。
「何が?」
「体調だよ」
「ああ、酒をやめて健康になったし、ヘマもしなくなった」
「そうかな。顔色悪いように見えるが」
「何だって?」
「好きなことを我慢していると、かえって健康を損ねるぞ」
「余計なお世話だ。私はもう酒は飲まないって決めたんだ」
「思えば、おまえの楽しみは酒だけだった」
「そんなことはない。学問もある」
「学問というストレスの合間に、酒という息抜きがあった」
「……」
「息抜きをなくしちゃったら、学問もおろそかになるぞ」
「ううっ! だったらどうすりゃいいんだよ?」
「タバコを始めなよ。タバコこそ学問の息抜きにはもってこいだ」
私はタバコは嫌いでした。
「嫌だね。あんなもののどこがいいんだ? 辛いし臭いし汚いし煙たいし、腹の足しにもならないじゃないか」
「それがな、回数吸っているうちによくなるんだよ〜」
「信じられないな」
「だまされたと思って続けてみるがいい。病み付きになるぞ〜」