2.三郎大夫忠重 | ||||||||||||||
ホーム>バックナンバー2013>2.三郎大夫忠重
|
わし、藤井忠重。
通称三郎大夫。
外見的特徴は、御老体。いわゆるジジイです。
役職は伊豆大島の代官。
島の年貢を集めて伊豆国府にお届けする集金係です。
ちょろまかすことはできません。上司である伊豆介・工藤茂光様は部下の不正は決して許さないのです。
理由は簡単です。不正を許せば、その分自分の贅沢(ぜいたく)ができなくなってしまうからです。
おっと危ない!これは言わない約束でした。別にこの時代に秘密保護法があるわけではありませんが……。
ですからわしはマジメに島の年貢を集め、国府に届けていました。
あの男が来るまでは……。
そうです。あの男とは、鎮西八郎源為朝です。
ある時、為朝は土足で宅に上がりこんできました。
わしの娘・簓江(さざらえ)も一緒だったので、わしは察しました。
(ははあ。さては「娘をください」と頼みに来たな)
わしの返答は決まっていました。
(乱暴者の流人には、大事な娘はやれません。どうかお引取りください)
そうです。わしはそこらの娘のオヤジと同様、オヤジとして当然のことを言おうとしたのです。
ところが、為朝はそんな頼みはしませんでした。
「娘はもらった」
いきなりそう言ってきたのです。
「は?」
絶句するわしに、簓江が、
「ほら〜」
と、お腹を見せてきました。
為朝がそれをさすって言いました。
「来年からは毎年のように代官の孫がポンポン産まれる。めでたい!めでたい!」
「!」
「代官も孫がかわいいはずだ。孫の将来のために財を蓄えようと思うはずだ」
「!?」
「そこでこの島の年貢は、今後一切国府に納めないことにした。島の財はすべてオレたちのものだ」
ようやくわしは為朝をさえぎりました。
「ちょちょ、ちょっと待て!そんなことは工藤様がお許しにならない!」
「許すさ」
為朝は断言しました。
「なぜなら茂光は、オレの強弓が火を噴くのを見たくないからだ」
「!」
何から何までむちゃくちゃです。
わしは押しかけ婿(むこ)に逆らえませんでした。
そこからというもの、わしはやむなく国府に年貢を届けなくなりました。
が、いつまでも茂光様が黙っているはずがありません。
年貢滞納を続けるわしに、督促状を突き付けてきたのです。
「近々、朝敵のくせに年貢を横領しまくった為朝は官軍によって成敗される。早急に年貢を納めなければ、貴殿も共犯として討伐する!」
わしは困惑しました。
(どうすればいいんだ〜?)
為朝の暴力も、茂光様の権力も、両方怖いのです。
わしは決心しました。
「よし、こうなったら二股膏薬(ふたまたこうやく・ごうやく)だ」
わしは為朝に内緒で、年貢の一部をこっそり国府に送り届けることにしたのです。
が、すぐに為朝にばれてしまいました。
「代官。年貢が少ないが、どういうことだ?」
わしはすっとぼけました。
「えーっと、その、はて、不作だったんでしょうか?わひひ!」
為朝は笑ってくれませんでした。
「代官がこっそり国府に年貢を納めに行くのを見た者がいる」
全部知っていたのです!
わしは動転しました。
「わっ、わっ、わしじゃないんです!わしはやってません!そうだ!わしのこの手が勝手にやったことです!なんて悪い手だ!ペンペン!」
わしは右手を左手でたたきました。
為朝はわしに命令しました。
「両手を前に出せ」
「へ?」
わしが言われたとおりにした瞬間、為朝は刀を抜きざまに振り落としました。
ズバーン!
わしの両手は真っ赤になり、指が何本か減っていました。