2.地 獄 | ||||||||||||||
ホーム>バックナンバー2016>2.地獄
|
池津媛と石川楯は雄略天皇の宮殿へしょっぴかれた。
「遅かったな」
雄略天皇の眉がピクピク動いていた。
「すごい遅かったが、今まで何をしていた?」
「……」
「ナニをしていた!」
池津媛はおびえた。ぺしゃんこに平伏した。
「お許し下さい!」
「許すわけがなーい!」
雄略天皇は楯にも尋ねた。
「質問だ。大王の妃を寝取った者は、どうなると思う?」
楯は震えながらも答えた。
「し、ししっ、死刑ですか?」
「正解!」
「ふえっ!」
雄略天皇は二人の密通現場を目撃した使者を連れてきた。
「この者がおまえたちのあられもない姿の時の会話を記憶しているという。この者の証言が本当かどうか答えよ」
「……」
「……」
「楯は媛に、『死ぬまで一緒だよ』と、言ったそうだな?」
「……。はい」
「『君と一緒にいられるのなら、もう死んでもいい』とも、言ったそうだな?」
「……。はい」
「媛は楯に、『私たちの恋の炎は誰にも消せないわ』と、言ったそうだな?」
「……。はい」
「『ずっと一緒よ。死んでからも』とも、言ったそうだな?」
「……。はい」
「これら四つの会話は、すべて真実なのだな?お前たち二人の願望ということなのだな?」
「ううっ、はい……」
「その通りです……」
「わかった」
「……」
「……」
「おまえたちの最期の四つの願い、すべてかなえてやろう」
「!?」
「!?」
雄略天皇は、大連・大伴室屋(おおとものむろや)を呼んだ。
室屋が合図すると、久米部(くめべ。来目部。朝廷の軍事部民)が木製の「十字架」を持ってきた。
いや、「十字架」というより「×字架」であろう。
池津媛と楯は、「×字架」に抱き合わせて四肢を縛られ、桟敷(さじき)に置かれた。
「何よこれ?」
「な、何をなさるんですか?」
「でも、あなたと密着できてうれしー」
「何を言ってるんですか、こんな状況で」
二人はもがきながら不思議がった。
雄略天皇は答えた。
「一つ目の願いはかなえた。これでおまえたちは死ぬまで一緒だ。一緒にいられたら死んでもいいという二つ目の願いも、今からかなえてやろう」
雄略天皇は室屋に合図した。
室屋が指示すると、久米部は池津媛と楯を縛り付けていた「×字架」に火をつけた。
ぶおう!めらめら!
「!」
「!」
二人はあたふたした。
パチ!パチ!パチ!
ぶわ!ぶわ!ぶわ!
「ちょっと!熱いんですけど!」
「やめて!火を消してっ!」
雄略天皇は許さなかった。
「消せるわけがない!おまえたちの恋の炎は誰にも消せないのだ!それが三つ目の願いであろう!」
火は二人の身体に燃え移った。
ぼわお!
ちか!ちか!ちか!
「ギャー!」
「ひいー!熱ぢー!」
バタドタ!ドタタ!
ンゴロンゴロ!
「なんてことを〜!」
「人間のすることじゃねえ!鬼だーっ!」
ばわう!
ごうごう!
「ぎゃ〜!死ぬ〜!」
「わうあ〜ぅぅ〜ん」
バッタン!バッタン!
のたうち!のたうち!
じゅう!じゅう!ばーべきゅ〜。
ぱらっ、ぱららっ。
しゅう、しゅう、しゅう。
二人は静かになった。
こんがり焼けて人炭になった。
炭が冷めていくに連れ、雄略天皇の怒りの炎も冷めていった。
「これで四つ目の願いもかなえた。二人は死んでからもずっと一緒だ」
[2016年3月末日執筆]
ゆかりの地の地図
参考文献はコチラ