1.伝 説 | ||||||||||||||
ホーム>バックナンバー2021>令和三年4月号(通算234号)桜花味 1.伝説
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河原で若い娘が遊んでいた。
石を投げて一人で遊んでいた。
「お嬢さん、何しているの〜?」
不審者がニヤニヤしながら近づいてきた。
「川に石を投げているの〜」
「わいも一緒にやろ」
「おじさん、そこにある石、投げられる?」
「ぶっ! これはちょっと大きすぎやろ〜」
「投げられないの〜? 弱虫〜」
不審者は瞬間点火した。
「何をー! 投げてやらー!」
その大きな石を持って投げようとしたが、
ぐきっ!
肩で変な音がして落としてしまった。
ぼて。
「何さらすんじゃボケ! こんな大きな石、投げられるわけないやろ!」
「あたいなら投げられるよ〜」
若い娘は、ヒョイッと難なく持ち上げると、
ぶーん!
勢いよく川面へ投げ込んでしまった。
「すげー!」
「もっと大きな石だった投げられるよ〜。例えばこの石〜」
「それは石じゃなくて岩っ!」
若い娘は、がっしと岩を抱えると、
「うおー!」
と、うなった後、
メリメリメリ〜!
砂ぼこりを巻き上げて頭上に持ち上げた。
そして、
「終わりだコノヤローーー!!」
ぐわーん!
ぼっちゃーん!
岩を川の中に投げ込んでしまったのである。
びっちゃびちゃ!
返り水を浴びた不審者は、
「こっ、こいつ……、やべーヤツや!」
恐れをなして逃げていった。
「河原に怪力の娘がいるそうだ」
「石を投げて遊んでいるそうな」
「小石じゃないぞ。大きな石を投げて遊んでいるんだぞ」
「え? それって女じゃないだろ?」
「若い娘だ」
「ウソだぁ〜。名前はなんて言うんだい?」
「『おさつ』というそうな」
怪力娘おさつのうわさが広まると、見物人が集まるようになった。
そして、対抗心を燃やす者も現れた。
怪力には自信があった太郎という大男であった。
「何? 河原に力自慢の娘がいるだと? ハハハ!女の力自慢なんて知れている!
どーれ、俺が行ってギャフンと言わせてやろう!」
こうして二人の力比べが始まった。
河原にはいつもよりたくさんの観衆が集まった。
「俺から行くぞ!」
まずは太郎が、
「うりゃー!」
巨石を持ち上げると、
ばーん!
それを地面にたたきつけた。
そのため、地面には大きな穴ができた。
観衆はどよめいた。
「マジか!」
「さすがに名乗り出てくるほどの者は違う」
「おさつも負けるかもしれないぞ」
太郎は高笑いして挑発した。
「どうだ? 降参かい? 降参するなら早くするがいい! ケッ! 貴様にはこんな芸当はできまーい!」
「できるよ〜。大きな岩だって投げられるよ〜」
おさつはそう言うと、
ぴた!
大きな岩に抱きついた。
太郎は思わず吹き出してしまった。
「やめとけ。さすがにそれは無理だ。びくともしまい」
「ぐおぉぉぉー!」
ぴく!ぴく!びくびくびく!!
「ま、まさか……!」
ぐばあぁぁぁーーーー!!
「クソ岩ぁぁー!! 天まで飛んでいけぇぇぇーーー!!!」
ぶん! ぶふん!! ぶわわおぉーーーーーん!!!
回転してハンマー投げのように投げ飛ばしてしまったのである。
「ありえねー!!」
降参したのは太郎のほうであった。
一方、投げられた大岩は川を飛び越え、城の庭に墜落した。
どっかーーーーん!!
ぐら! ぐらぐら!! ぐらんぷり!!!
「何だ!? 何だ!?」
思いがけない爆音に家老はあたふたした。
「地震か?」
殿様も柱に抱きついて恐怖した。
しかし、庭に出てみて、そうではないことがわかった。
「大きな岩が庭にあります! 何者かが投げ込んだものと思われます!」
「何だと? 嫌がらせではないか! 不届き者を引っ捕らえよ!」
おさつはひっ捕らえられた。
殿様は、おさつと大岩を比べ見て信じられなかった。
「待て待て。この小娘が、この大岩を投げ込んだと申すのか?」
「はい。あたいが投げました。ちょーしのっちゃってました。ごめんなさい」
「ふざけるんじゃねえ! そちにはこんな大きな岩、動かせもできねーだろ!」
「動かせますよ、ほら、ほら」
大岩のそばに連れて行ったもらったおさつは、足でこづいて動かしてみせた。
縄をほどいてもらった後は、軽々持ち上げてもみせた。
殿様は仰天した。
「こいつはたまげた!」
「ジャマなら河原に投げ戻しましょうか?」
「やめろ! 危ないじゃないか! よく見ると良い岩だ。このまま庭石にしておけばよい」
「それならもうちょっといい感じの庭石にしてさしあげましょう」
「いい感じだと? どうするのだ?」
「こうするのです」
おさつは、
「アチョー!」
ドカッ!
と、いきなり大岩に空手チョップを食らわせた。
ぴき、ぴき、ぴき! ぱっかーん!
岩は真っ二つに割れた。
「見事だ!」
殿様は喜んだ。
そして、
「家老よ。この割れ目にサクラの苗木でも植えておくがよい」
と、命じたのである。
やがて苗木は成長し、「石割桜」と呼ばれるようになったという。