★ パリは萌えているか | ||||||||||||||
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そうです!
絵のモデルの娘が来たんです!
金欠だった私のために、無報酬で裸婦のマドモアゼルが来てくれたんです!
ええ、もちろん脱いだのは私のアトリエでです。
外から裸婦の格好で来たわけではありません。
「セボン、セシボン、ボン、キュッ、ボーン♪」
久しぶりにまぶしい裸婦を前にして、私はいつになくハイテンションでした。
以下、フランス語は日本語訳します。
『いい絵を描くぞー!』
やる気満々の私に、マドモアゼルが言いました。
『さむい』
確かに、六月にしては妙に肌寒い日でした。
『我慢してよ〜』
『我慢できない。着よっ』
マドモアゼルは服を着てしまいました。
私は絵筆を振り回してぶうたれました。
『服着たら裸婦にならないじゃ〜ん。頼むから脱いでよ〜』
『ストーブたいてくれたら脱いであげる〜』
私は困りました。
ストーブ燃料の石炭は高くて金欠な私には買えないのです。
『ストーブはたけない』
『そんなら帰る』
本当に帰ろうとしたマドモアゼルを、
『ちょっと待ってくれ。暖まる方法を考えるから』
と、押しとどめました。
でも、何もいい方法は思いつきません。
『もう帰るっ』
じれてまた帰ろうとした彼女の前に、
『待って!待って!』
私は両手を振って立ちふさがりました。
その手を見て、私は思いついたのです。
『そうだ!これだ!君を温められる方法が見つかったよ』
『どうやって?』
『寒くなるたびにこの手でさすって身体を温めてあげるよ!』
『!』
マドモアゼルは了承しました。
しかし、それからが大変でした。
絵を描こうとしても、マドモアゼルはすぐに、
『さむい』
と、訴えるのです。
私はそのたびに筆をカタンと置いて、彼女にツカツカ歩み寄って、スリスリ肌をさすって温めてあげなければなりませんでした。
それでも私はやり続けました。
いい絵を描くためには、完遂しなければならなかったのです。
それが私の生きる道でした。
『さむい』
カタン。
ツカツカ。
すりすり。すりすり。
『まださむい』
カタン。
ツカツカ。
すりすり。すりすり。すりすり。
『すごいさむい』
カタン。
ツカツカ。
すりすり。すりすり。すりすり。すりりんご。
『もっとさむい』
カタン。
ツカツカ。
なでなで。なでなで。なでなで。なんですか。
『もっともっと』
カタン。
ツカツカ。
もみもみ。もみもみ。もみもみ。もみいかいちょう。
『ああんもっと』
カタン。
ツカツカ。
なめなめ。なめなめ。なめなめ。なめこじる。
『日仏交流!』
とれびら〜ん。
『!』
[2015年11月末日執筆]
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※ 『美術家の欠伸(山本鼎著)』には、「肌をさすった」より先は書いてありません。