★ パリは萌えているか

ホーム>バックナンバー2015>パリは萌えているか

パリは燃えているか
★ パリは萌えているか

 そうです!
 絵のモデルの娘が来たんです!
 金欠だった私のために、無報酬で裸婦のマドモアゼルが来てくれたんです!
 ええ、もちろん脱いだのは私のアトリエでです。
 外から裸婦の格好で来たわけではありません。

「セボン、セシボン、ボン、キュッ、ボーン♪」
 久しぶりにまぶしい裸婦を前にして、私はいつになくハイテンションでした。
 以下、フランス語は日本語訳します。
『いい絵を描くぞー!』
 やる気満々の私に、マドモアゼルが言いました。
『さむい』
 確かに、六月にしては妙に肌寒い日でした。
『我慢してよ〜』
『我慢できない。着よっ』
 マドモアゼルは服を着てしまいました。
 私は絵筆を振り回してぶうたれました。
『服着たら裸婦にならないじゃ〜ん。頼むから脱いでよ〜』
『ストーブたいてくれたら脱いであげる〜』
 私は困りました。
 ストーブ燃料の石炭は高くて金欠な私には買えないのです。
『ストーブはたけない』
『そんなら帰る』
 本当に帰ろうとしたマドモアゼルを、
『ちょっと待ってくれ。暖まる方法を考えるから』
 と、押しとどめました。
 でも、何もいい方法は思いつきません。
『もう帰るっ』
 じれてまた帰ろうとした彼女の前に、
『待って!待って!』
 私は両手を振って立ちふさがりました。
 その手を見て、私は思いついたのです。
『そうだ!これだ!君を温められる方法が見つかったよ』
『どうやって?』
『寒くなるたびにこの手でさすって身体を温めてあげるよ!』
『!』

 マドモアゼルは了承しました。
 しかし、それからが大変でした。
 絵を描こうとしても、マドモアゼルはすぐに、
『さむい』
 と、訴えるのです。
 私はそのたびに筆をカタンと置いて、彼女にツカツカ歩み寄って、スリスリ肌をさすって温めてあげなければなりませんでした。
 それでも私はやり続けました。
 いい絵を描くためには、完遂しなければならなかったのです。
 それが私の生きる道でした。

『さむい』
 カタン。
 ツカツカ。
 すりすり。すりすり。

『まださむい』
 カタン。
 ツカツカ。
 すりすり。すりすり。すりすり。

『すごいさむい』
 カタン。
 ツカツカ。
 すりすり。すりすり。すりすり。すりりんご。

『もっとさむい』
 カタン。
 ツカツカ。
 なでなで。なでなで。なでなで。なんですか。

『もっともっと』
 カタン。
 ツカツカ。
 もみもみ。もみもみ。もみもみ。もみいかいちょう。

『ああんもっと』
 カタン。
 ツカツカ。
 なめなめ。なめなめ。なめなめ。なめこじる。
『日仏交流!』
 とれびら〜ん。
『!』

[2015年11月末日執筆]
ゆかりの地の地図
参考文献はコチラ

※ 『美術家の欠伸(山本鼎著)』には、「肌をさすった」より先は書いてありません。

歴史チップス ホームページ

inserted by FC2 system