1.夢をあきらめないで | ||||||||||||||
ホーム>バックナンバー2019>令和元年(五月号(通算211号)令和味 長屋王の変1.夢をあきらめないで
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「ぼくはテンノーになる!」
それが長屋王(「天皇家系図」参照)少年の夢であった。
自身より、周りから背負わされた期待であった。
「おまえならなれる!」
父・高市皇子は、天武天皇の長子であった。
「あなたならなれるわ!」
母・御名部内親王は、天智天皇の娘であった。
「なれるわよ!」
妃・吉備内親王は、天武天皇の孫であった。
皇太子・草壁皇子(くさかべのみこ・くさかべおうじ)の娘であった。
「父は天皇になれなかった……。だから、あなたが父の分までなるのよっ!」
持統天皇三年(689)、草壁皇子は天皇になることなく死んでいた。享年二十八。
持統天皇四年(690)、高市皇子は太政大臣に昇った。
「この上はもう天皇しかない!」
さらに上を見た高市皇子も、持統天皇十年に病に倒れた。
「オレはもうだめだ……。おまえが代わりに天皇になるしかない!」
享年四十三。
御名部内親王の意識も高かった。
「そうよ!あきらめないで!あなただけは絶対になるのよ!」
彼女の姉は持統天皇になっていた。
妹は元明天皇になっていた。
自分だけ、天皇になっていなかった。
だからこそ、せめて息子にはなって欲しかった。
そして、チャンスがやってきた。
「高齢のため、女帝(元明天皇)が譲位するそうな」
時の皇太子・首皇子は、病弱な上にまだ十五歳の坊やであった。
一方、長屋王はというと、健康で子沢山な三十二歳の壮年に達していた。
「皇太子の父は皇族だが、母は藤原氏だ。それに比べて私は父も母も皇族。まるで相手にならねーぜ!」
長屋王は自信があった。
「次に天皇になるのは私しかいない!」